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復活を遂げたアジアウインターリーグの存在意義〜台湾と世界をつなぐ橋となれるか?

アジアウインターリーグ終幕


 2年ぶりに復活したアジアウインターリーグ。各チーム16試合のレギュラーシーズンを戦い、参加5チームのうち上位4チームがプレーオフ(1位対4位、2位対3位のそれぞれの勝者が一発勝負の決勝戦で戦い、優勝を決める)に進むという方式で行われた。20日の決勝戦では台湾の大学生が中心の「中華培訓」がNPBに逆転勝利。郭李建夫監督率いる「中華培訓」がアマチュアながらも韓国、日本のプロを打ち破っての優勝を果たした。

 「2年ぶりの開催」ということは、つまり昨年はやむなく中止となってしまった。その原因は資金不足。このウインターリーグは、ラテンアメリカやオーストラリアのそれと異なり、独立した組織が運営するのではなく、台湾プロリーグ・CPBLの主催による若手選手育成を目的とした短期のリーグである。そのような事情から興行としては事実上、成立しているとは言えない。今年はとにかく観に来てもらおう、と平日の試合に関してはスタンドを無料開放し、週末の金・土・日のみ入場料を取る、という方式にしたものの、どの試合も100人を超える程度の観客しか集まってはいなかった。


▲日曜日の台中インターコンチネンタル球場の試合。見ての通り、閑散としている

 選手の報酬などはもちろんない。それでも試合をすれば、それだけ経費もかかってくるし、選手たちの宿泊費や食費、国外チームの渡航費もバカにならない。日韓のプロチームについては、渡航費は選手の所属球団の負担にしてもらい、CPBLは試合開催に関する費用や宿舎からの移動費だけを負担する形で合意を得た。しかし、これとて規模の小さいCPBLにとっては大きな負担だ。

 今回はCPBLとヨーロッパチームにスポンサーをつけ、さらに国や自治体からの協力を取り付けるなどの努力により資金を調達。残りのCPBLの負担となるアマチュアであるヨーロッパ選抜チーム「麗寶欧州」や大学生中心の「中華培訓」の経費をまかなうことができ、ようやく2年ぶりの開催にこぎつけた。


▲CPBLのチームは胸にスポンサーをつけて、戦った

 若手選手の育成という趣旨は理解できるが、ここまでしてウインターリーグを開催する理由はあるのだろうか。これには台湾野球を取り巻く諸事情がからんでいる。

ここまでウインターリーグ開催に執着する事情とは


 台湾は現在国際社会において「国」として認められていない。オリンピックなど国際スポーツシーンで「チャイニーズ・タイペイ」というネーミングで出場しているのはそのためだ。このような状況から、台湾は常々、国際社会にその存在をアピールしようと考えている。その1つの施策として、台湾にとって国際政治上の「宿敵」である中国が、かつて「ピンポン外交」を行ったように、台湾国民が「国技」として熱狂する野球を通じて「台湾」をアピールしようとしている。

 だからこそ、「国際大会の開催実績とその成績は台湾野球界にとって重要だ」と関係者は言う。このウインターリーグにアジア以外のチームを招待する意味がここにある。

「(過去に参加した)ドミニカ共和国のチームは向こうのウインターリーグの都合もあって、決してレベルの高いチームではありませんでしたが、アジア以外の野球を経験させることは、台湾の若い選手にとってもいい経験になるんですよ」(台湾野球関係者)

 もちろん、政治的な意味合いだけではなく、選手たちにとっても意味があることとして、これからもいろいろな地域から参加を募ろうと考えているのだろう。

 このウインターリーグに参加したすべての選手が将来的にトップ代表入りするわけではない。しかし、世界の野球を体感したDNAは確実に台湾球界全体に広がっていく。

ウインターリーグよ、架け橋となれ!


 今回は、大学生を中心とする代表チーム「中華培訓」も初参加していた。
 実は、台湾でもプロとアマチュアの関係はうまくいっているわけではない。その改善という意味もあり、「中華培訓」の参加を依頼し、実現した、という話だ。また、選抜チームに選ばれた多くの大学生選手は来年のドラフト候補。選手にとってはプロへのアピールと、いつもより刺激ある試合を経験でき、プロ側(CPBL)にとっても選手の最終チェックができた。このウインターリーグは有効に活用されていることだろう。

 そして、なによりも筆者が嬉しく思うのは、このリーグが世界の野球の振興に貢献していることを実感したことだった。

 今回初参加の「麗寶欧州」はプロアマ混成の若手中心のチームだ。しかし、「プロ」と言っても、実際はオフにアルバイトで糊口をしのいだり、シーズン中も兼業したりしている選手が大半だ。野球だけで食べていける選手は皆無だろう。

 「麗寶欧州」のメンバーで、2015年3月に行われた日欧野球のメンバーでもあるフランス人投手、オーウェン・オザニックは留学先のアメリカで野球に出会い、その後、オーストラリアのウインターリーグで「プロデビュー」を飾った。現在は母国のスポーツクラブでインストラクターをしながらプレーを続けているという。


▲オーウェン・オザニック(フランス・ルーアン)

 このような選手が集まった「麗寶欧州」の実力は、正直、他のチームに比べてかなり劣る。レギュラーシーズン15試合(1試合は雨天中止)で、このチームが挙げた白星はたった1つ。これがヨーロッパ野球の現実だろう。しかし、参加した選手にとって、アジアのプロ選手やアマチュアトップの「中華培訓」との対戦は必ずや将来の糧になる。

 プロ野球や社会人の都市対抗野球と同じくフランチャイズ方式で行われ、外国人選手は地元球団に助っ人参加するという方式も悪くはないが、各国対抗の「アジア方式」も世界の野球を目の当たりにできて面白い。このリーグの継続を心より願う。


文=阿佐智(あさ・さとし)
1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。ブログ「阿佐智のアサスポ・ワールドベースボール」(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/gr009041)

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