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第3回:長嶋茂雄とマンガの世界

 先週放送された朝の情報番組に安倍晋三首相が出演し、国民栄誉賞授与が決まった長嶋茂雄氏に記念品として金のバットを贈ることを明らかにした。また、通常は首相官邸で行う授与式を、5月5日の東京ドームで行うことも明言。昭和29年生まれの安倍首相自身も、幼い頃は長嶋さんの活躍に影響を受けた世代であることは間違いないだろう。
今回の『みんなの長嶋茂雄ラボ』では、そんな団塊世代の少年達を夢中にさせた「長嶋さん」と同じ時期の「漫画」について、双方の関係性を調べてみた。いつの時代でも少年たちに影響を与える「漫画」だが、その関係性はいかに…。

メディアミックスの先駆け

 「長嶋さんは少年漫画の歴史を変えた!」と、いきなり宣言したいほど、長嶋さんのプロ入りから球界引退までの間で、少年漫画の歴史は大きく変化したといえる。
 昭和33年に巨人軍に入団した長嶋さんはいきなり本塁打王、打点王、新人王を獲得。その年の11月には『冒険王』という少年雑誌で「ゴールデンボーイ長島物語」(伊藤海彦・日吉まるお)の連載がスタート。長嶋さんの少年時代からのエピソードを軸にした作品で、当時としては新たな試みとしてラジオ番組とのタイアップ企画も展開するなど、今で言うメディアミックスの先駆けとなったのが長嶋さんだ。
 続いて昭和34年3月には初の週刊少年誌として創刊された『少年サンデー』の表紙に登場。読者の皆さんも、少年に耳打ちされる長嶋さんの写真を一度はどこかで見かけたことがあるかもしれない。この表紙への本人登場をきっかけに、いわゆるひとつの「長嶋人気」にあやかった少年向け漫画が数多く発表されることになったのだ。


イラスト/ながさわたかひろ


長嶋さんが続々登場!

 昭和34年の1月には長嶋さんの名前そのものをタイトルにした少年漫画「ナガシマくん」(わちさんぺい)が連載開始。主人公は「野球が大好きな床屋の息子」という設定で、名前はもちろん「ナガシマ」。野球の試合や毎日の生活で起こる出来事をベースにしたギャグ漫画風の作品だったようだが、ちなみに長嶋さん本人は登場していない。
 昭和36年連載開始の「ちかいの魔球」(福本和也・ちばてつや)では、主人公が入団テストで長嶋さんと対戦し、長嶋さんは主人公が投じる魔球で三振を喫してしまう。当時の少年たちの憧れのヒーロー、一番人気は長嶋さんだった時代背景のなか「自分たちと同世代の主人公が巨人軍に入団し、長嶋さんと共に勝利に貢献する」というストーリーはまさに鉄板ネタであり、巨人軍で一緒にプレーするという当時の野球少年たちにとって夢のような、まさに「マンガの世界」は長嶋さんあってのモノだった。そして少年たちは漫画を通じて、野球というスポーツを知り、ルールや選手を覚えていったのである。終戦から約10年経った昭和30年代に、再び少年たちを野球に向かわせたのは他ならぬ長嶋さんだったのである。

ロボット長島!?
 長嶋さんが登場する野球漫画を調べる途中、一番衝撃的だったのが、SFと野球を堂々と組み合わせた「SF野球漫画」とも言うべき「ロボット長島」(久米みのる・貝塚ひろし)だ。スランプに悩む長嶋さんの前に現れた長嶋さんそっくりのロボットは、あの胸毛までそっくり。そのロボットと長嶋さんは一緒になってスランプ脱出のための猛練習を敢行。時速160キロで走り迫る自動車のヘッドライトをバットで打つ練習や、果ては水中でピラニアの大群を打ち返す練習…。しかしながら、このハードなトンデモ練習で無理がたたったロボットは爆発。長嶋さんはロボットとのハードな練習のお陰で見事、スランプを脱出するという、今の時代でも充分面白い異色の「長嶋野球漫画」といえる作品だった。
 こういった不思議な企画が通るくらい、当時の野球漫画は「何でもアリ」だったのだろう。SF野球漫画のほか、魔球を物語の中心とした野球漫画「黒い秘密兵器」(福本和也・一峰大二)、忍者が野球をする忍者野球漫画「忍者投手X」(荘司としお)、少年たちが空き地で野球をする生活密着系野球漫画「ホームラン教室」(高垣葵・寺田ヒロオ)など…。昭和30年代は野球漫画というジャンルに勢いがあり、少年たちに多大なる影響を与える、まさに一番元気な時代だったといえるのではないだろうか。そしてその中には、長嶋さんがいたのである。

野球マンガが一番元気だった頃
 大トリとして、長嶋さんが登場する野球漫画で一番有名なのは「巨人の星」(梶原一騎・川崎のぼる)だろう。ストーリーはあまりにも有名なので省くが、星飛雄馬の登板時に三塁を守っていたのは他ならぬ長嶋さんであり、飛雄馬が野球生命を絶たれた後、復活を期する「新巨人の星」では、長嶋新監督の下で最下位に沈んだ巨人軍を舞台に物語は継承されていくのだった。
 その後は時代が変わり、漫画も変わった。国民的ヒーロー不在のなか、少年たちを熱中させるモノは多種多様になり、野球漫画も様々な広がりをみせるようになる。長嶋監督が電撃辞任した昭和55年以降も、野球漫画は数々のヒット作を生み出すが、昭和30年代ほどの勢いはなかった。
 それはそれでしょうがないことだと思うが、野球漫画が一番元気だった時代の野球漫画にあれほど登場した選手は後にも先にも長嶋さんだけであろう。言い換えれば、長嶋さんがいたからこそ、野球漫画に元気があったのかもしれない。そういう意味ではやはり、長嶋さんは偉大である。

<バックナンバー>
第1回:長嶋茂雄とは何だったのか?
第2回:長嶋茂雄と天覧試合

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