各地区で春の王者が決まり、高校野球の季節はついに夏。あっという間に各地で夏の選手権大会の抽選、そして本番がはじまる。
各チームは練習試合、招待試合などで最後の調整を進めるが、驚きのニュースが飛び込んできた。
東京五輪を機に高校野球の歴史の扉が開かれようとしている。6月15日、東京都高野連と朝日新聞社が、2020年の夏の高校野球で東京ドームを使用することを発表した。東東京大会、西東京大会ともに準決勝、決勝は東京ドームでの開催になる。東京五輪に際し、神宮球場が資材置き場などとして使用されるための措置だ。
では、これまでなぜ東京ドームで開催されなかったか……というと、簡単な話だ。
まず、東京高校野球の聖地が神宮だから。それほどアマチュア球界の「聖地観」は独特なのだ。たとえば、兵庫県では2004年までときおり甲子園が兵庫大会の会場として使われていたが、あくまでメインは明石トーカロ球場。なぜなら、兵庫高校野球の聖地は明石トーカロ球場だから…である。
これはあくまで筆者の憶測だが、もうひとつの理由には、ある種の忖度があったのかもしれない。そもそも夏の甲子園は朝日新聞社(と日本高野連)が主催している。東京ドームは実質的にライバルである読売グループのお膝元であり、なかなか使いにくかったのも実情だったのではないだだろうか。
京セラドーム大阪やナゴヤドーム、ヤフオクドームではすでに開催実績があるが、東京ドームではどんなドラマが生まれるのか。
もうひとつ、高校野球界では大きな動きがあった。今春のセンバツでは「サイン盗み」で一悶着あったが、それを受けて日本高野連が周知徹底事項として、走者あるいはベースコーチが捕手のサインを見ることを禁止するよう通達した。特に罰則はないが、「マナー」として取り扱われる。
これまでも走者が打者に何かしらを「伝達」することは禁止されていたが、サインを見ることは禁止ではなかった。たとえば二塁走者がサインを読み取り、変化球に合わせてゴーということはできたわけだ。
「見る」「見ていない」はかなり曖昧で本当に「マナー」の問題になる。先述の二塁走者だって、「クセを見て走りました」と言われれば、追及は不可能。もうこうなれば、スマートウオッチでも使ってサクッとサインをやり取りできるようにするしかないだろう。
ただ忘れてはならないのは、サイン伝達には危険が伴うということだ。春からの議論でここが忘れられている気がしてならない。外角に球がくるという伝達を受けた打者が踏み込んで、逆球がきたらどうなるのか。プロ野球で伝達が蔓延していた時代でも「使わない」という選択をする選手は少なくなかったそうだ。理由は「危険だから」である。
やっていた、やっていないの前にこうしたメッセージを発信してほしいと切に願う。
文=落合初春(おちあい・もとはる)