スコアをつけるようになると、野球のルールに詳しくなる。それでも、「あれはどうだったっけ? と思うようなプレーに出くわすことがある。とくに記録にかかわるルールは、野球をよく知っている人でも意外と知らないものである。
大会第2日の第1試合、いなべ総合学園対鶴岡東の試合。9回表、鶴岡東の攻撃。1番打者に対して3ボール0ストライクのカウントで投手が交代した。救援した投手がボールを投げ、四球を出してしまった。このときの四球は先の投手に記録するのか、それとも救援した投手なのか。
その答えは野球規則9.16(h)に書いてある。「その責任はカウントによって決められている」。今回の3-0のカウントで交代し、四球を出した場合は、先の投手に四球を記録することになっている。ただ同じカウントでも四球以外の結果であれば、後の投手の記録となる。例えば3-0からヒットを打たれれば救援投手に被安打を記録する。
打撃妨害や走塁妨害はたまに起こるプレーである。捕手が打者の打撃を妨害したとすると、打者は出塁する。打者には打数はつけず、捕手に失策を記録する。では、満塁で打撃妨害が起こった場合に、打者に打点は記録されるのだろうか?
野球規則9.04打点(a)では、次の場合には打点を記録すると記されている。「(2)満塁で、四球、死球、妨害(インターフェア)および走塁妨害(オブストラクション)によって打者が走者となったために、走者に本塁が与えられて得点が記録された場合」。
大会第9日の第1試合、市和歌山対日南学園の試合で、それは起こった。6回表、日南学園の攻撃。2死満塁で2番打者がカウント2-2の後の5球目で捕手による打撃妨害を受けた。2番打者は出塁し、押し出されて走者が得点。捕手には失策が記録され、2番打者には打点が記録された。失策と打点が同時に記録されるレアケースだ。
最後に、私が今年スコアをつけて最も印象に残っている試合を紹介しよう。それは、大会第8日の第4試合、横浜対履正社の優勝候補同士の試合である。
8月14日は日曜日で、しかもお盆休みに行われる好カードということで、朝から甲子園は超満員。直前の第3試合では、東邦が9回裏の猛攻で八戸学院光星に逆転勝ち。甲子園が異様な盛り上がりを見せた後の試合だった。
1回裏に横浜が1点先制し、2回表の履正社の攻撃。その途中で雷が鳴り試合が中断。程なく激しい雨が降り43分間の中断。試合が再開されると履正社は3ランホームランで一気に逆転に成功した。その後再び雷雨で40分の中断。再開後に履正社は2点を追加。5対1で履正社が勝利を収めた。雷雨が試合の明暗を分けた形だ。
スコアとしては、横浜の2投手が履正社の全打者から奪三振を記録。そして無失策試合という締まった試合だった。しかしそれ以上に、スコアシートの欄外に書いた2回の「雷雨中断」が、試合を大きく動かしたように思う。スコアの数字や記号以上に、欄外に書いたことが、振り返ったときにその試合で起こったことをよく思い出させてくれる。
文=矢上豊(やがみ・ゆたか)
関西在住の山本昌世代。初めてのプロ野球観戦は、今はなき大阪球場での南海対阪急戦と、生粋の関西パ・リーグ党。以来、阪急、オリックス一筋の熱狂的ファン。プロ野球のみならず、関西の大学、社会人などのアマチュア野球も年間を通じて観戦中。