外崎修汰というプレーヤーは、西武の首脳陣にとってこの上なくありがたい存在に違いない。
二塁、三塁、外野とどこでも試合に出られるから、チーム事情に応じてフレキシブルに起用できる。打ってはパンチ力があり、2019年はキャリアハイの26本塁打、90打点をマーク。走っても3年連続20盗塁以上と、トリプルスリー(3割30本塁打30盗塁)を期待できる球界で数少ない選手である。
看板打者だった浅村栄斗が楽天にFA移籍した穴をさほど感じなかったのは、外崎の貢献があってこそ。そのポテンシャルとユーティリティー性は侍ジャパン関係者も注目しており、内野守備・走塁コーチを務める井端弘和(元中日ほか)は「登録メンバーに限りがある国際大会で、一人で何役もこなしてくれる貴重な存在」と高く評価している。2019年秋にはプレミア12代表としてもプレーした。
だが、富士大時代の外崎は、スカウト陣にとって評価が難しい選手だったのではないだろうか。170センチ台半ばの平凡な上背に細身な体型。大学4年時には遊撃を守っていたが、守備力がずば抜けていたわけではない。当時は長打力もさほど目立たず、大学時代からの1学年先輩である山川穂高に比べるとインパクトが薄かったはずだ。
ただ、私は外崎のことを大学時代から「打撃の師匠」と勝手に位置づけ、参考にしていた。外崎はタイミングの取り方が抜群にうまかったのだ。
もちろん、タイミングの取り方は千差万別であり、人によって合う、合わないは分かれるもの。あくまで、外崎のタイミングの取り方が私の好みだったに過ぎない。
外崎はボールを呼び込む際、左足を高く上げる。軸足一本で立って待ち受けるわけだが、この過程のバランスが素晴らしい。軸足側の股関節に重心が乗り、いつでもスイングを開始できる形をキープできるのだ。この安定感のある待ち方なら、打ち損じる確率が減らせるだろうと感じた。
しかし、動きを頭でわかっていても、実践することは難しい。軸足に重心が乗り過ぎれば速球に差し込まれてしまうし、重心の乗り方が浅ければ対応できる幅が小さくなる。この塩梅が外崎は絶妙だった。
さらに引っ張り、おっつけ、泳ぎながら運ぶ……と、対応できる引き出しが多いのも魅力だった。長打力はプロ入り後に目覚めたようだが、「タイミングを取れる」という長所は大学時代から光っていた。
守備でも驚かされたシーンがある。外崎が大学3年生だった当時の大学選手権、富士大は三塁を山川が守っていた。秋のドラフト会議を見据えてスカウト陣に一塁以外も守れる点をアピールしている感は否めず、山川の守備は不安定だった。
三塁前のボテボテのゴロを拾った山川が、一塁に向かってジャンピングスローを試みる。だが、指に引っかけ過ぎた送球は一塁手の右側にそれる。誰もが悪送球で打者走者が進塁すると思ったそのとき、バックアップに入っていた二塁手の外崎がそのボールをダイレクトでキャッチしたのだ。
なんとも機敏な動き。そしてバックアップに最善を尽くすチームへの献身。外崎修汰という選手の本質をこのプレーから垣間見たような気がした。プロ入り後、チーム内で欠けたピースをことごとく埋める外崎の姿は、このバックアップからすでに滲んでいたとは言い過ぎだろうか。
はっきり言えば、外崎がプロでここまで華々しく活躍するとは予想できなかった。それでも、この選手には攻守にチームを救うだけの武器があり、そして野球が大好きということはエネルギッシュな動きから十分に伝わっていた。
プレーを見ているだけで伝わるものがあり、応援したくなる。その要素こそ、外崎が持つ最大の武器なのかもしれない。
文=菊地高弘(きくち・たかひろ)