今年の合同トライアウト参加予定の元ドラ1選手は2人いるのだが、その1人がDeNAの松本啓二朗だ。
リトル時代、シニア時代、高校時代(千葉経大付高)とあらゆるカテゴリーで全国大会を経験。大学時代(早稲田大)には大学日本代表に選ばれるなど、まさに「野球エリート」という経歴の持ち主だ。
2008年のドラフトで阪神と横浜(現DeNA)が1位競合。交渉権を獲得した横浜に入団した。ルーキーイヤーの開幕戦から1番・中堅で先発出場したまではよかったのだが、そこで流れに乗ることができず、以降は1軍と2軍を行き来することに。
2013年には新外国人・モーガンの不振などが重なって、自己最多の72試合に出場したものの、レギュラー奪取までには至らず。そしてチームの躍進を担う後輩たちに押し出されるように、今季限りで戦力外通告を受けた。
来年で32歳になるが、「体はどこも悪くない」と本人が言っているように大きな故障歴がないのは強み。まだまだ体が動くだけに、合同トライアウトにも万全なコンディションで臨んでほしい。
もう1人の元ドラ1は、2005年の高校生ドラフト1順目で楽天に入団した片山博視。報徳学園時代はエース兼4番として甲子園に出場し、高校通算36本塁打を放ったことから、投手でも野手でも上位指名候補と謳われた逸材だ。
世が世なら二刀流と騒がれていたかもしれないが、プロには投手として飛び込み、3年目の2008年に先発デビュー。初勝利を初完投・初完封で飾るなど、ローテーション投手としての未来が見えかけたが……。
2009年は故障で1軍登板なし。2010年はブラウン新監督の元でセットアッパーへと転向することに。2013年まで中継ぎで活躍したものの、再び先発投手を目指したところで左ヒジ痛を発症してしまう。
これが原因で投手を断念することとなり、野手転向に活路を見出したがうまくいかず。そして今季、12年間所属した楽天から戦力外を告げられた。
こうして新天地を求めてトライアウトに挑むことになった片山。これまでに得た経験値は同年代の選手のなかでも相当に濃いはず。
プロ野球界の酸いも甘いも味わった元ドラ1は、這い上がれることができるか。復活のドラマを見てみたい。
3人目は……、まだ参加を表明していない、というよりも、トライアウト参加は現実的ではないが、参加してでも現役を続けてほしい1人の投手を取り上げる。現役続行を求めて日本ハムを退団した武田久だ。
2006年から2013年まで長きに渡って活躍。3度の最多セーブに輝くなど、日本ハムのブルペンを支えてきた。だが、2014年の開幕戦での救援失敗から歯車が狂い始め、2015年には両ヒザにメスを入れるなど年々、武田を取り巻く状況は悪化していた。
そんな逆風のなかで再起を目指し、2016年は5試合、今季は7試合に登板。しかし、思うような結果を出せず、チームから引退を勧められることに……。しかし、それで復活への闘志が燃え上がったか、北海道を去る決意を固めた。
来年は不惑を迎えるということで、年齢的には厳しい。ただ、武田の中に「引き際の美学」があるのなら、とうにユニフォームを脱いでいたはず。それを選ばなかったベテラン……ということで、今はただただ彼の意地を感じたい。
戦力外を通告された選手が、これからもプロとしてあり続けることができるか。その最後の砦と言えるトライアウト。毎年、参加者の1割にオファーが掛かればいい方という、まさに狭き門である。
とはいえ、少しでも可能性があるなら最後のチャンス賭けたい。筆者が同じ立場でも、間違いなくそう思うだろう。
とくに今回挙げた選手たちは、プロ野球の華々しさを知っているだけに、このまま終われないという想いを人一倍抱えているはず。
窮鼠は猫を噛むか。選手たちの人生を掛けた戦いは、明日幕を開ける。
文=森田真悟(もりた・しんご)