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手の内を知る監督との初戦が決定!名将・高嶋仁監督が率いる智辯和歌山、復権なるか!?

「久しぶりに選抜、暴れてきます」

 元旦に届いた賀状の裏に力強い文字でそうあった。智辯和歌山高・高嶋仁監督からのメッセージだ。

 ここ数年、高嶋監督の魅力に嵌っている。ある時から「谷上さん」と名前で呼ばれるようになり、稀にではあっても電話をもらうようにもなった。そして何より、取材が非常にスムーズに進み、会話が弾む。もちろん、僕も取材に行くのが楽しみだが、高嶋さんも楽しみにしてくれているのではないかと思えるようになっている。嬉しいことだ。


 しかし、そんな楽しい取材を終えるたびに、必ず思うことがある。
 あと何回、高嶋さんの取材で智辯和歌山のグラウンドに来れるだろうか、ということだ。高嶋さんも今年の5月で68歳。まだまだ十分に元気ではあるが、自分にも厳しい高嶋さんのこと、どのタイミングでユニフォームを脱ぐかは心に決めているように思う。

 70歳という区切りか…

 4度目の日本一か…

 と様々なケースを想像する。どんなタイミングであろうと、いつか辞する時がくる。それまでに、もう1度、勝ち切った高嶋さんの顔を見たい、とここにきて強く思うようになっている。



 しかし、これまで限られた選手を徹底的な練習量と厳しさで鍛え、勝ってきた智辯和歌山が、近年、甲子園で勝ちきれなくなってきた。智辯流、高嶋流の厳しさで磨かれていく強さが時代に合わなくなってきた、とも言える。

「横浜やPL(学園)にいくようなヤツらとちゃうんやから。これくらいやらんかったら、全国で勝負なんかできんのや」

 絶対量で追い込む智辯和歌山の指導に「今時でない」という声に対して、高嶋さんはこう反論していた。その基本的な考えは持ち続けながらも、選手との距離、接し方、指導方法……、時代に合わせようと模索を続けている。


 指導者講習会に顔を出し、最前列で元プロ選手や同業者のパネリストに耳を傾ける姿を知る人は少ない。今、早稲田大でプレーをする道端俊輔が高校3年になる冬。高嶋さんは、講師役の元プロに質問をした。「ルーズショルダー気味で肩を痛めてる選手がいるんですけど、いいトレーニングはないですか」

 いくつか聞いた中で、腕立て伏せをアレンジした方法を聞くと、早速、道端に伝え、毎日実践させた。器用ではないが、野球にも選手にも真っ直ぐな人なのだ。だからこそ、また勝ってほしい、とつくづく思ってしまう。


 さて、その智辯和歌山は大会4日目、第3試合に登場する。相手は明徳義塾。年齢は一回り下だが、馬渕史郎監督と高嶋さんの付き合いは深く、今も練習試合や折に触れ、食事をともにしたりする。ちなみに、甲子園での前回対戦は2002年夏の決勝で、この時は明徳義塾が勝利し、優勝している。

 今回、初戦での対戦が決まると、「もうちょっと上で当たりたかった」と高嶋さんは言ったそうだ。しかし、甲子園での戦いもカウントダウンに入ってきたこのタイミングでの対決に、何か別れを前にした挨拶のようで、感傷的な気分になったのは僕だけだろうか。


 今年の智辯和歌山は、勝ち切っておかしくない力を持っているはずだ。
 昨秋、和歌山県大会で戦ったチームの関係者は「こっちではもたもたしとったのに」と近畿大会準優勝の結果に「意外」という反応を見せたが、勝ち上がるほどに力を発揮するのが智辯和歌山でもある。

 まして秋は左の斎藤祐太、強打で3番も打つ右腕・山本龍河の2枚が故障や本調子に遠い状態での結果。2月に高嶋さんを訪ねた時も「先発がしっかりしてくれたら、(秋に活躍した)東妻が後ろでしっかり投げてくれるはずやから……」と話していた。持ち前の打線は全盛期ほどの迫力にはまだ一歩も、ここ2、3年の中では振れる選手も多く、つながりもある。

 以前、2002年の夏の決勝の話を聞いた際こんなことを言っていた。

「まぶっつあんの優勝インタビューを聞いてて、やっぱりおんなじこと言うなと思いながら聞いとったんよ。『ここまできたらあとは選手に任せて信頼してました』って言うとったからね。やっぱり、最後はそういう心境になるんよ」

 決勝は4月1日の予定。勝利のお立ち台で、同じセリフを聞けるだろうか。


■ライター・プロフィール
谷上史朗(たにがみ・しろう)/1969年生まれ、大阪府出身。関西を拠点とするライター。田中将大(ヤンキース)、T−岡田(オリックス)、中田翔(日本ハム)、前田健太(広島)など高校時代から(田中は中学時代から)その才能に惚れ込み、取材を重ねていた。『野球太郎』では「阪急ブレーブス あれからの勇者たち」が好評連載中。

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