今宮は明豊高時代から身体能力の高い選手として注目されてきた。打っては高校通算62本塁打。投げては3年夏の甲子園準々決勝戦で154キロを計測。投手兼内野手の二刀流で世間を騒がせ、2009年ドラフト1位でソフトバンク入りした。
しかし、プロでは一転、そのパンチ力は影を潜め、「守備の人」「つなぎの人」というイメージだ。
3年目の2012年に正遊撃手へ定着、驚異の守備範囲を武器に2013年から3年連続ゴールデングラブ受賞。バットでも役者が揃う常勝軍団のなか、2番や下位で起用される機会が多いこともあり、犠打が多い。2013年にはパ・リーグのシーズン最多犠打記録を塗り替え、8月22日現在、通算215犠打を決めている。
その一方、長打力という点では昨季終了時点で通算17本塁打。シーズン最多でも昨年の7本塁打にとどまっているのだ。
ひと昔前と比べて、スポーツ医学や栄養学が進歩し、トレーニングメソッドが確立された現在は、選手の長身化が進んでいる。ソフトバンク・柳田悠岐に代表されるように、俊敏性を兼ね備えた長身選手が増えてきた。
一方、体格的に不利な小兵選手はますます生き残ることが難しいご時世に。特にパ・リーグでは小兵選手による年間2ケタ本塁打は「無理ゲー」ともいえる困難な挑戦になっている。
というのは、2004年に日本ハムが札幌へ移転、翌年に新規参入した楽天が仙台を本拠地にしたこともあり、本塁打が出にくい広大な球場が増えたことがある。また、2011年から、いわゆる「飛ばない統一球」が導入されたことも影響した。
そのため、2004年以降、パ・リーグでは身長174センチ以下の打者による年間2ケタ本塁打は、下記のわずか3人・4例。今宮と同じ右打ちでは谷佳知(当時オリックス)の1例しかない。
2004年:谷佳知(オリックス) / 173センチ / 15本塁打
2004年:礒部公一(近鉄) / 174センチ / 26本塁打
2005年:礒部公一(楽天) /同上/ 16本塁打
2015年:森友哉(西武) / 170センチ / 17本塁打
今季の交流戦中、藤井康雄打撃コーチの助言で生まれたという「テニス打法」。ポイントを前に置き、テニスのラケットで打ち返すイメージで球をとらえるこの打法で、今宮は打撃開眼。その今宮が2004年の谷以来の快挙に王手をかけたのだ。
ここまできたら、ぜひ2ケタ本塁打を達成してほしいと強く願いながら、シビれる首位決戦を堪能した。
文=柴川友次(しばかわ・ゆうじ)
信州在住。郷里の英雄・真田幸村の赤備えがクリムゾンレッドに見える、楽天応援の野球ブロガー。各種記録や指標等で楽天の魅力や特徴、現在地を定点観測するブログを2009年から運営の傍ら、有料メルマガやネットメディアにも寄稿。