梨田監督が決断を下す数日前、開幕戦に先発予定だった岸孝之がインフルエンザに罹患。楽天は開幕投手が白紙に戻る緊急事態を迎えていた。
そんな折、必勝祈願で参拝した大崎八幡宮、雨中の参道で指揮官の脳裏に浮かび上がったのが「白い馬」と言われている。つまり、白星を運んでくる美馬学の姿だった。
こうして自身初の開幕投手を務めた美馬は、前半戦でエース級の働きをみせた。その成績は防御率2.46、7勝2敗、クオリティスタート率80.0パーセント。リーグ3位の防御率は、一時、菊池雄星(西武)を抜いてランキング1位に浮上するなど、則本昂大、岸とともに先発三本柱を形成。楽天の躍進に大きく貢献した。
そして始まった後半戦、先発陣のキーマンはやっぱり美馬なのだ。
楽天は9月3日まで7週連続で6連戦が続く日程。タフなスケジュールをこなして栄冠を勝ち取るには、後半戦も先発三本柱が万全で機能することが大前提になる。ただ、則本と岸は実績十分で計算が立つが、美馬については未知の領域で不透明だ。
というのは、前半戦こそエース級の働きを見せたが、「飛ばない統一球」が見直され、リーグの得点環境が現在と同じになった2013年以降の4年間は、通算防御率4.16と今ひとつ物足りない成績に終わっているからだ。また、規定投球回に達したのも2012年と16年の2度だけで、2ケタ勝利を記録したこともない。となると、美馬の「30歳の夏」はある意味、未知との戦いになる。
そこで注目したいのが「見逃しストライク」である。筆者は“これぞ美馬”の前半戦快投を支えた大きな原動力だと考えている。
昨年の与四球率1.86が示すように、以前から美馬はストライクゾーンに球を集めて無駄な四球を出さない投球は得意だった。一方、狙ったコースやゾーンに投げ切るコマンド能力は不足がちだったこともあり、この4年間の被打率は.289から.309の間で推移していたのだ。
しかし、今シーズンは狙ったところへズバリと投げ込める制球力が冴え、最も安全にカウントを作る「見逃しストライク」の数が急増した。
筆者調べでは「見逃しストライク」は、前年同期比で69球の増加だ。前半戦の則本と比べても55球も多く、岸を16球上回る多さだった。打者にバットを振らせず、ストライクを取ることができるようになったことで、「18.44メートルの対決」で主導権を握った。その結果、例年、約3割台だった被打率も.215に大きく改善した。
美馬が後半戦も快投を続けるには、「見逃しストライク」が生命線を握る。「見逃しストライク」の数が増えるようだと、美馬のペースだ。これから連戦続きで屋外球場試合も増えてくる真夏の優勝戦線を迎える。疲労と戦いながら、きわどいコースに投げられるか? 美馬の見逃しストライクに注目してほしい。
文=柴川友次
NHK大河ドラマ「真田丸」で盛り上がった信州上田に在住。郷里の英雄・真田幸村の赤備えがクリムゾンレッドにみえる、楽天推しの野球ブロガー。開幕前から楽天有利、ホークス不利の前半戦日程を指摘、イーグルス躍進の可能性を見抜いた。