2010年の春に大改修を終えた甲子園球場。
アルプススタンド、外野席には座席の下にドリンクホルダーが備えつけられたものの、ゲームに熱中してくると、ついつい自分の座席にビール入りの紙コップを置いて立ち上がったのを忘れ、座った瞬間ひっくり返してしまうことがある。
ただ、球場に頻繁に通っていると、「やった経験」も「やられた経験」も持ち合わせているためか、「お互い様」といった雰囲気で、こぼれたビールで濡れて怒る客をほとんど見たことがない。
むしろ、大量にこぼしてしまうと、周りが気遣いを見せる。下段の人に知らせる人、球場係員から新聞紙をもらってくる人、トイレに駆け込みトイレットペーパーを持ち出してくる人……。お客さん同士の連携がすばらしいことに驚かされる。
おかしくて愛すべき阪神ファンたち。いや、これは関西人気質の表れといえるのかもしれない。
そういえば、レフトの外野スタンドの階段(ライトも相対する同じ場所はそうかも知れない)で、よく人が転ぶ箇所があるのはご存知だろうか?
ちょうど下から10段目くらいのところが、急勾配から暖勾配に変化していて、足を踏み外す人が続出する場所なのだ。
大改修の際の施工ミスなのか、構造上、仕方ない施工なのかは不明だが、ビールを抱えた人が転ぶと悲惨なことになるのは想像できよう。
500ミリリットルの紙コップを4つもダンボール製のトレイに載せて階段を上がってくる客は、非常に危ない。
下が見えないために、面白いように転ぶ。いや、人の不幸を笑ってはいけない。しかし、2リットルにも及ぶビールが滝のように流れ出す光景は壮観でさえある。
こぼした客は、周りをずぶぬれにしたことと、ビール4杯分のお金が一瞬のうちに飛んでいくことへの後悔の念にさいなまれるが、「今後、ケガをしないよう、階段は慎重に上がるように」との神様の言葉だと思えば、少しは救われるかもしれない。
甲子園球場では、開門時の缶ビール持ち込み禁止の検査をかいくぐり、スタンドで平然と缶ビールを飲み干す客の姿を頻繁に見かける。
これも関西人気質と言ってしまえばそれまでだが、決しておかしくて愛すべきとはいえない行為だ。
東京ドームの荷物検査は非常に厳しい。密閉されたドームということもあり、テロ対策もあってか、警備員服の係員が荷物の中にまで手を入れ、厳重にチェックしている。
対して、甲子園球場の開門前荷物チェックはいわゆる“あまあま”。
これに乗じて、持ち込む客も悪びれた様子はない。だが、これは関西人気質だけで片づけるわけにはいかない問題だ。
あらためた方がよい行いもなかにはあるが、とにもかくにも、おかしくて愛すべき甲子園の阪神ファン。ビールにまつわるあんなことこんなこと……。
甲子園球場のスタンドでは、様々な人間模様が垣間見えて面白い。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。