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ブラックソックス事件から「野球と賭博」問題を考える

 読売ジャイアンツは、チーム所属の福田聡志投手が自チームの試合を含むプロ野球、高校野球、メジャーリーグなどの試合で、野球賭博を行っていたと発表。球界に大きな波紋を投げかけている。目下最大の注目点は、実際に賭博にかかわっていた球界関係者が、福田投手以外にいたかどうか、という点になってくるだろう。

 このニュースを受け、各メディアでは過去に日本プロ野球を危機に陥れた「黒い霧事件」について紹介することが多い。1969年から71年にかけ、金銭の授受を伴う八百長に関与したとして球界関係者20名を処分、うち6名を球界永久追放へと追いやった悪夢。ここまで問題が大きく広がらないことを願いつつ、真相はハッキリとさせなければならない。

 「野球と賭博」の問題を考える際、「黒い霧事件」以外にもうひとつ、我々は過去から学ぶ必要がある。1919年にアメリカ・メジャーリーグで起きた「ブラックソックス事件」だ。本稿ではその内容をダイジェストで振り返ってみたい。


MLB史上最大の汚点


 150年近い歴史を誇るメジャーリーグにおいて「史上最大の汚点」といわれる「ブラックソックス事件」。1919年のワールドシリーズ、シカゴ・ホワイトソックス対シンシナティ・レッズ戦で発生した八百長工作が、アメリカ球界を震撼させた。

 事前展望ではホワイトソックス優勢とされていたのだが、終わってみればレッズが優勝。シリーズ開始前から八百長の噂が立っていたこともあって大きな騒ぎとなり、最終的にホワイトソックスの主力8選手が賄賂をもらってわざと試合に負けたとして刑事告訴され、球界から永久追放処分を受けてしまう。同時に、国民的娯楽(ナショナル・パスタイム)としての野球の地位と信頼は失墜した。

「嘘だと言ってよ、ジョー」


 このときの8選手のなかで、象徴的に語られることが多いのがジョー・ジャクソンだ。マイナー時代に裸足でプレーした経験から、「シューレス・ジョー」の異名で知られている。

 映画「フィールド・オブ・ドリームズ」にその名が出ることでも有名なジョー・ジャクソン。彼は、当時のメジャー屈指の好打者として人気者だった。実質のルーキーイヤーにあたる1911年には打率.408、41盗塁、233安打というとんでもない成績を挙げる。余談だが、この233安打は2001年にイチローが塗り替えるまで、メジャー新人選手の安打記録だった。

 そんな彼が八百長に加担していたというのだから、当時の野球ファンの落胆ぶりは想像に難くない。野球少年が「嘘だと言ってよ、ジョー」と叫んだエピソードも有名だ。実はそんな発言はなかった、ともいわれるが、今でも米球界で何か不祥事が起こると、メディアやファンの間でこの言葉が頻出。メジャーリーグ史上もっとも有名なフレーズのひとつとされている。

ジョー・ジャクソンと池永正明の共通点


 永久追放処分を受けたジャクソン。だが、彼は実際には八百長に加担していなかった、と見られている。というのも、問題の1919年ワールドシリーズにおいて、ジャクソンは32打数12安打1本塁打、打率.375という大当たり。守備でもエラーはなく、チーム敗退につながるようなプレーはなかったのだ。

 では、なぜ永久追放になってしまったのか。法廷で自ら八百長を認めたからに他ならないが、実際に賄賂を受け取ってしまったことが致命的だった。また、ファンへのアピールとして、人気のあったジャクソンでも厳しく処罰した、という見せしめ的な意味合いもあったと考えることができる。いずれにせよ、米球界はメジャー屈指の好打者を32歳という全盛期に失ってしまった。

 このことでよく比較されるのが、日本球界の「黒い霧事件」で永久追放処分を受けた西鉄ライオンズのエース、池永正明だ。彼もまた八百長には加担していなかったが、金は受け取った、として永久追放処分に。5年間で99勝を挙げる稀代の大投手にも関わらず、全盛期(24歳)で球界から身を引かなければならなかった。

 その後、池永氏は当時のチームメイトや球界・芸能界の支持者たちによる懇願活動によって、2005年にようやく追放処分が解除。事件発覚から35年を経てようやく復権したのだ。

 一方のジョー・ジャクソンは復権の機会を得ないまま1951年に死亡。ただ、今でも彼のファンや球界OBたちの手によって、永久追放処分の解除と野球殿堂入りを求める運動が続いている。

コミッショナー制度の誕生


 ブラックソックス事件をきっかけに野球界に生まれたものがある。それが今に続く「コミッショナー制度」だ。

 国民的娯楽の信頼失墜を少しでも早く回復すべく、米球界は判事のケネソー・マウンテン・ランディスに、絶対的裁量権を有する「コミッショナー」就任を要請。こうして初代コミッショナー指揮のもと、事件の真相究明が行われた。

 初代コミッショナーであるランディスが、その最初の仕事で8選手に永久追放処分を下した意義は大きかった。野球人はもとよりやファンのなかでも「球界の最高権力者」としてのコミッショナーイメージが定着したからだ。以降、米球界をさまざまな問題が襲うたびに、時のコミッショナーが強いリーダーシップを発揮。ビジネス的にも右肩あがりの成長に結びついている。

 さて、ここで再び、日本球界における今回の賭博問題に話を戻したい。

 言葉は悪いが、日本球界におけるコミッショナーの実情は「球界の最高権力者」というよりも、単なる「お飾り」として語られることが多い。だからこそ、熊崎勝彦コミッショナーは今こそリーダーシップを発揮しなければならない。元検事としての調査能力とともに、プロ野球をあるべき姿に導く先導役として、存在感を示してくれることを期待したい。生半可な態度や姿勢を見せれば、ここから端を発して「日本球界の危機」に直面しても不思議ではないのだ。


文=オグマナオト

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