北條史也と中軸を組み、3季連続甲子園準優勝をやってのけた田村龍弘。打撃の好評価に対して低く感じられる捕手といての評価。
しかし、田村龍弘最大の長所「野球脳」は捕手だからこそ生かされるのだ。いったい田村の「野球脳」とは、いかなるものなのか。取材を重ねたライターが迫る!
これを巡りというのだろう。ドラフトで田村龍弘が千葉ロッテマリーンズから指名されたと聞き、そう思った。ちょうどその1週間前、ロッテの伊東勤新監督の就任が発表されたところだった。
田村の指名に新監督の意向が反映されたかどうかはわからない。ただ、現役時代、王者西武の司令塔として活躍した伊東監督が新しく指揮を執ることになったチームで、田村がプロ生活をスタートさせる。
ここに予感が走った。おそらく田村は捕手として育てられていくのだろう。そしてうまく育っていくのだろう…と。怪物や猛者が揃うプロの世界では、何気ない巡りや縁を味方につけた者がいち早く争いから抜け出ていく。
だとすれば…。
田村をプロがどう評価しているのかも興味があった。その意味でドラフトを楽しみにしていた。
チームメイトの北條史也も、全日本で田村とチーム最多安打を競った?橋大樹(龍谷大平安高)も、田村の打撃技術を絶賛した。
「アイツは中学時代からいつも打ってますからね。スランプのときを見たことがない。僕の苦手なインコースもさばきますし、単純にすごいですよ」(北條)
「タツのミートセンスはちょっと違いますね。飛ばす力は負けないですけど、芯でとらえる技術はマネできないです」(?橋)
田村は大会という大会で常に打ってきた。
本人にその話題を向けたときも「だいたいどんな大会でも練習試合でも4割から4割5分くらいは打ってました」とアッサリ認めた。
この自信満々な感じがまた田村なのだが、自信満々に語って構わないだけの結果を残し続けてきた。
さらに高校野球引退後にはプロ入りを見越し、すり足のフォームを試すなど大胆な改造にも挑戦している。
このあたりの“打”については前号の『野球太郎』で書いたので深くは触れないが、問題は、残してきた実績に比べ、田村に対する評価が微妙だったということだ。
「打つ以外」をどう見るかでその評価が大きく変わってくる。田村はそんな選手だった。
去年までは三塁を守り、昨秋の新チームから捕手(中学時代に経験あり)。
今年の春、夏の甲子園連続準優勝には打撃だけでなく、守備面でも大いに貢献した。
しかし、ドラフト前に取材へ行ったときには「プロへ行ってどこでもできるように、今は内野の練習をやってます」と、二塁や三塁でノックを受けていた。プロ側の「内野手としても」「他のポジションができた方が」といった声が伝わっていたのだろう。
本人とすればチャンスを求めるため、自発的に内野の練習もしているということだった。
ただ、田村のよさは捕手でこそ生きると僕は思っていた。
仲井宗基監督も「プロへ行くことを考えたからこそキャッチャーにしたんです。彼の持ってる野球に関する頭というのはちょっと違いますから。そこを一番生かせるのは間違いなくキャッチャー。それにキャッチャーなら小柄でもプロでやってる人もいます」。
「まだまだキャッチングが…」「フットワークが…」といった点を指摘するスカウトもいた。
しかし、本格的に捕手へ転向して1年あまり。課題を多く残していて当たり前。
それよりも…強さと素早さを備えたスローイング、視野の広さを感じさせる一、三塁への牽制、そして何より、捕手・田村に感じる魅力はそのインサイドワークだ。
仲井監督は「春夏の準優勝はキャッチャー・田村なくしては絶対になかった。配球は田村に全面的に任せていますし、彼の観察力はすごいですよ」と語った。
特に打者の内角を効果的に使った大胆な配球が印象に残る。決して盤石とは言えない投手陣を、打者心理をうまく利用しながらの好リードで勝利に導いた。
田村の最大の魅力を一言で表せば「優れた野球脳」ということになるだろう。
たとえば、田村は甲子園の試合前や試合後のインタビュー時間にとにかくよくしゃべる。
まるでチームの監督か、名物部長かとでもいうように、一つ聞かれたことに対し、何倍もの言葉を使い返してくる。
その答えにまた説得力があった。
あの姿を見たとき、田村の野球に関する思考の深さに触れた気がした。
それだけ語れるということは、それだけの考えが頭にあるということで、普段から考えて野球に取り組んでいるということなのだ。
この野球脳に関しては改めてインタビューを行ったときにも再確認したが、プロ野球の世界でも、捕手にはよくしゃべる人が多い。
よくしゃべる捕手ほど優秀なことが多いとも僕は思っている。
逆に、期待ほど伸びないタイプの捕手には言葉数の多くないケースが多い、とも。
捕手出身の人は解説者になる人も多く、その解説も人気のケースが多いが、田村には活躍できる捕手のパターンにはまる資質をはっきり感じる。
だから捕手としてこの先も生きていってほしいと思っていたが、どうやら、その思いが叶ったようだ。
ドラフトから4日後、伊東監督は報道陣とのやり取りの中で田村の来春の1軍キャンプ帯同の可能性を示唆したと新聞が報じていた。
記事によれば「能力を見極め、できればそばに置いて、1軍のキャンプに帯同させたい」と語ったという。
西武監督時代には高卒ルーキーだった炭谷銀仁?を開幕スタメンで起用したこともある。
伊東監督自身も熊本工高の定時制から西武の球団職員を経て1年目から、1軍で33試合に出場した経験を持つ。
経験こそが財産となる捕手というポジションの意味を肌で感じている伊東監督が、どう田村を育てるのか。「(炭谷は)基礎の基礎ができていた。(田村も)それぐらいの選手であってほしい」と期待を込めたというが、田村の野球脳に触れたとき、伊東監督の田村を見る目は間違いなく変わるはずだ。
この超高校級の頭脳がプロの世界でどう成長していくのか。しっかり追っていきたい。
(※本稿は2012年11月発売『野球太郎No.002 2012ドラフト総決算プレミアム特集号』に掲載された「26選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・谷上史郎氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)