週刊野球太郎
中学、高校、プロ・・・すべての野球ファンのための情報サイト

第十五回目:塁が埋まっているか

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
第5回の日時が決まりました! 4月26日(金)19時〜です。最終回のテーマは『ゲームメーキング編』です。(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.comまで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。第5回の詳細をお知らせいたします)


「制約あり」の場面で

キビタ:前回に続いて、状況ごとの守りや攻めを整理していきます。
久保:簡単に言ってしまえば、打者にとって制約があるかないかという話ですね。「制約あり」というのは、ゲッツーになる可能性があるということです。
キビタ:数字には表れにくいですけど、そういう場面でのバッティングが上手いかどうかが、選手の値打ちを決めると言っていいでしょう。
久保:とあるプロ入りした外野手を大学時代に取材したのですが、その時に監督さんがやけにまどろっこしい言い方をしていたんです。よくよく整理してみたら「彼はミートは抜群に上手いけど、たとえば1死一塁の場面では無造作にショートゴロを打ってしまうから、2番で使うとよさが消えてしまう」ということを遠回しに言っていたんです。
キビタ:その選手は足の速い左打者ですよね。
久保:そうなんです。プロでは2番で使われそうなタイプだし、実際に2番での出場機会が多いんですけど、そういう「制約あり」の場面でも本能的に打ってしまうから、首脳陣からするとちょっと使いにくいタイプかもしれません。
キビタ:1番か下位のように、制約の少ない打順に置いてあげないと、力を発揮しないでしょうね。
久保:そういう選手って、アマチュアでも意外と多くありませんか? ランナーなしの場面ではきれいな流し打ちで出塁するけど、制約のある場面ではサインに対応できなくて、余計なアウトを連れてくる。「ミートが上手い」と言われる選手には、その手のタイプが多いような気がします。




一、三塁と二、三塁

キビタ:無死もしくは1死で一、三塁の場面を考えてみます。
久保:監督によっては、この一、三塁が「攻撃の理想の形」と言いますけど、なぜでしょう?
キビタ:守る側からしたら、色んなプレーを予測しないといけないので、守りにくいシチュエーションだからです。
久保:内野ゴロでゲッツーも考えられますから、打つ側からしたら「制約あり」の場面だと思うのですが。
キビタ:もちろんゲッツーのリスクもありますよ。でもそれ以上に選択肢が多岐にわたるので、守る側からすると混乱しやすいのです。
久保:攻撃側の選択肢のひとつに「偽装スクイズ」があります。
キビタ:スクイズのふりをして、一塁ランナーの盗塁を助けるプレーですよね。これはあくまでもランナーを進めるための補助的な手段であって、一、三塁での根本的な攻め方ではないと思うんですよ。
久保:そうなんですか。
キビタ:一、三塁なら一塁ランナーのエンドランもありますし、ダブルスチールも考えられます。もちろんスクイズもあるでしょう。点を取るための攻め方がいくつもあります。偽装スクイズは点を取るための作戦ではないので、あくまでも補助的なものだと考えた方がいいかと思います。
久保:一、三塁を二、三塁にするための作戦ということですね。
キビタ:一、三塁で攻めて相手を考えさせるか、二、三塁でゲッツーのリスクをなくすかは、監督の価値観もあるでしょう。二、三塁なら攻撃側はゲッツーを気にせず打てますけど、逆に守る側からすると、割り切って前進守備だけに集中できたりもします。
久保:無死一、三塁でこんなことがありました。昨年の都市対抗の明治安田生命vs伯和ビクトリーズの試合で、明治安田生命が1点差に追い上げた8回表、無死一、三塁で4番の加藤孝紀選手が速い当たりのサードゴロを打ちました。5−4−3でゲッツーだろうなと誰もが思った瞬間、伯和のセカンド内山孝起選手はホームに転送。三塁ランナーをホームで刺してダブルプレーにしました。記録のうえでは5−4−2TO(タッチアウト)のダブルプレーです。
キビタ:5−4−3だったら、三塁ランナーの生還を許していたでしょう。
久保:このプレーが効いて、伯和ビクトリーズは1点差で逃げ切りました。内山選手の一瞬の機転というか、素晴らしい判断でした。


▲たくさんの攻め手があり、守りにくいシチュエーションでも機転を利かせれば、守備側にビックプレーが生まれる可能性もある。



ゲッツーのリスクを回避する

キビタ:ちょっと強引なまとめになりますけど、塁が埋まっているとゲッツーの可能性があります。攻める側からすると「ゲッツーになったらいけない」という制約が出てくるので、意外と攻めにくかったりします。
久保:四球などで塁が埋まった時に、内野手が「この方が守りやすいよ」と声をかけるのも、単なる励ましではないんですね。
キビタ:このゲッツーのリスクをどのように回避するかで、采配も変わってきます。強かった時期の常葉菊川は「ゲッツーOK」で割り切る代わりに、走塁をとことんまで鍛えてリスクを回避していました。
久保:とある大学の監督は「1番から9番まで全員が石井琢朗(当時横浜、現広島コーチ)だったら、ゲッツーはない」と言って、足の速い左打者を並べようと躍起になっていました。でも、そういう選手ばかりを集めすぎて、打線がスケールダウンしてしまいました。
キビタ:そのあたりのバランスは難しいですね。
久保:スモールベースボールの時代なんでしょうけど、大きいのを打てる選手がいないと、メリハリのない打線になってしまいます。
キビタ:打線と試合の流れの話などは、最後のレクチャーでお話したいと思っています。




■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

記事タグ
この記事が気に入ったら
お願いします
本誌情報
雑誌最新刊 野球太郎No.32 2019ドラフト直前大特集号 好評発売中
おすすめ特集
2019ドラフト指名選手一覧
2019ドラフト特集
野球太郎ストーリーズ
野球の楽しみ方が変わる!雑誌「野球太郎」の情報サイト
週刊野球太郎会員の方はコチラ
ドコモ・ソフトバンク
ご利用の方
KDDI・auスマートパス
ご利用の方