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明治神宮大会・大学の部を沸かせた美しき敗者たち……環太平洋大・野村昭彦監督、愛知大・中川誠也

★「力の差はない」環太平洋大・野村昭彦監督が見せた気概


▲環太平洋大を率いる野村昭彦監督(山本晃子撮影)


「“悔しい”のひとことです。チャンスは作って、追い詰めただけに……」

 1回戦で関西地区第1代表の天理大を撃破し、迎えた準々決勝の東海大戦。0−3の惜敗に環太平洋大・野村昭彦監督は悔しさを隠しきれなかったが、その後強く言い切った。

「力の差はないと思っています」

 野村謙二郎前広島監督の実弟である野村昭彦監督は、母校である駒澤大でコーチや大学職員を務め、2013年に当時中国地区大学リーグで2部に低迷していた環太平洋大の監督に就任した。

「学業との両立」を掲げ、練習を朝練習と17時〜20時のみとし、アルバイトも許可した。

「“上手く時間を使うように”と常に言っていますね。“短い時間でも強くなれ”“高校野球の延長だと思え”ともよく言っています」と野村監督は、生活規範を整え、集中して練習をすれば強くなると選手に説き続けた。そして今夏には長期間の関東遠征も敢行した。

 亜細亜大、専修大、上武大とのオープン戦で好投したエース左腕・和田洸輝(3年・久御山高)は自信をつけ、今大会では2試合10回を投げて2失点と、先発として、しっかりゲームメイクを果たした。

 また主将には大学球界では異例の2年生・野村尚生(崇徳高)を抜擢。下級生を主将とすることで、昨今薄れつつある「上級生が下級生に教え、下級生が上級生を敬う」という空気を醸成。野村も気負うことなく打率5割を残した。

 次なる目標は“再び神宮で勝負する”こと。

「ウチにはお金がなくて、行きたくても関東の大学に行けなかった子もいる。そういった子たちにも、ここでこれだけ野球ができるんだぞと感じさせてあげたいんです」

 悲願の打倒関東勢に向け、野村監督は語った。そして、その表情には、強豪校に対しての気後れは一切感じさない自信と迫力があった。

★トミー・ジョン手術を乗り越えて〜愛知大・中川誠也


▲粘り強い投球で今春王者を苦しめた中川(高木遊撮影)


「安打を少なく抑えられたのは収穫ですが、悔しいです。ただ、最後にここまで来られた嬉しい気持ちもあります。重信、茂木とはまた対戦すると思うので、次は抑えたいです」

 愛知大の左腕・中川誠也(4年・伊勢工高/中日育成ドラフト1位)は唇を噛みながらも、涙は見せず前を向き、プロでの飛躍を誓った。

 高校時代は伊勢工高のエースとして、同校を23年ぶりの甲子園出場に導き、甲子園では金沢高の釜田佳直(現楽天)に投げ負けたものの、手応えを掴んだ。

 だが、大学1年の6月に左ヒジのじん帯再建術(通称トミー・ジョン手術)を受け、3年春まで公式戦登板なしに終わった。

 野球を辞めることも考えたというが、周囲の励ましもあり、「1人で野球をしているのではない」と気づくことができた。

 3年秋にリーグ戦デビューを果たすと、今秋は5勝を挙げてリーグ優勝に貢献。東海・北陸・愛知三連盟王座決定戦(明治神宮大会代表決定戦)でも2先発1救援で3連勝を挙げ、チームを11年ぶり2度目の明治神宮大会出場に導いた。

 そして迎えた明治神宮大会初戦の相手は、今春日本一の早稲田大。

 中川は最速130キロ台ながら、「腕の振りの割にストレートが来ていて、差し込まれました」と早稲田大・茂木栄五郎(4年・桐蔭学園高/楽天ドラフト3位)が振り返ったように、もう5キロは速く感じさせるストレートやキレのいい変化球を武器に、早稲田大打線から凡打の山を築いた。

 しかし7回2死から相手先発投手の9番・大竹耕太郎(2年・済々黌高)にまさかのセーフティーバントを敢行され、出塁を許す。すると、続く重信慎之介(4年・早稲田実/巨人ドラフト2位)に四球を与え、河原右京(4年・大阪桐蔭高)にも安打を許し、2死満塁のピンチを迎え、打席には茂木。

「最も回してはいけない打者に、最も回してはいけない場面で回してしまい、球も甘く入ってしまった」と中川が悔やむように、初球のストレートを茂木がフルスイング一閃。打球は力強さを保ったまま、左中間を破り、走者一掃の3点タイムリーとなり、これが決勝点となった(愛知大0−3早稲田大)。

 悔しさの残る7回の投球ではあったが、右打者のインローに食い込むストレートを中心に、王者を苦しめたのは間違いない。

「右打者のインローへの投球は、上(のレベル)で野球をやるために、ずっと磨いてきました」

 プロでは育成選手契約からのスタートとなるが、目指す投手像は大学の先輩でもある岩瀬仁紀(中日)。苦難を味わった男だからこその強い気持ちで、成り上がりを目指す。


文=高木遊(たかぎ・ゆう)
1988年、東京都出身。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。大学野球を中心にアマチュア野球、ラグビー、ボクシングなどを取材している。高木遊の『熱闘通信(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/buaka/)』随時更新中。twitterアカウントは@ you_the_ballad (https://twitter.com/you_the_ballad)

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