2017年球団ワーストの96敗を喫したヤクルトが未来を託したのは高校通算52本塁打の強打に俊足を備えた「なりたて捕手」。
ライバルに破れ続ける雌伏の時を超え、ドラ1に上り詰めた男は新時代の捕手になれるか?
前回、「もうひとりの怪物」
最後の夏も熊本大会決勝に進出した村上と九州学院。しかし、先述の通り秀岳館に1対3で競り負け、最後まで宿命のライバルを打倒することは叶わなかった。
3番・捕手としてこの試合に臨んだ村上は、初回に放った内野安打一本に終わり4打数1安打、3三振に終わった。先発の川端からは2三振。2打席目は138キロのキレのいいストレートで追い込まれ、最後はスライダーを振らされての空振り三振。3打席目は直球に振り負けての空振り三振。高校生活最後の打席となった8回は田浦と対戦し、初球142キロのストレートをファウルとしたが、ストライクゾーンにきた2、3球目の変化球に手が出ず、見逃し三振に終わった。
九鬼の時代は浅いカウントからの内角ストレートを詰まらされ(振らされ)、フライを打ち上げることが多かった。そのイメージが残っていたのかもしれない。村上は内角ストレートへの意識が強く、逃げるスライダーへの意識が散漫になったか。それとも単純に川端、田浦が投げるスライダーのキレが上回ったか。外の変化に対応することはできなかった。
「自分が決めていればという場面は何度かありました(初回の1死一塁、5回の2死一、三塁)。そこを逃したのは明らかに実力不足以外の何物でもない。完敗です。相手が上でした」
結果的に村上のバットが秀岳館を粉砕することは叶わなかったが、1年秋から始まった秀岳館を倒すために磨き続けた打棒が、高校水準を遥かに凌ぐレベルに達していたのも事実。
「もともとミートの技術には長けています。ここへきて柔らかさが備わってきました」
こう村上を評価する坂井監督。実に九州学院の打者らしいコンパクトな振り出しからの、大きなフォローも特徴的だ。また、ペッパー感覚で確実にとらえる視点も並の打者以上だという。打球は引っ張りよりもセンター方向が多い。これこそが村上の好調時を知るバロメーターとなっているのだが、2年秋以降に放った本塁打を含む長打の多くがセンター中心に飛距離を稼いでいる。
1年春の早稲田実戦も左中間、1年夏の初打席に放った満塁弾もバックスクリーン。打球がこの方向の最深部に飛んでいる時は、ちょっと手がつけられない。
ドラフトでは巨人、楽天が競合。1位の当たりクジはヤクルトの小川淳司監督が引き当てた。
「上位で指名されたらいいなと思ってはいましたが、1位指名はまったく想定していませんでした」
小川監督は、近年は球団の編成部門で活動していたため、村上の能力については知り尽くしている。当日の会場で語った村上評は次の通りだ。
「清宮を外したら次は村上でいくと決めていました。守りよりも打撃を高く評価しての1位指名。遠くに飛ばす力は清宮にも引けを取っていない。将来は球界のクリーンアップを打つことができる。それほどのバッターです」
打者として高い評価を下したヤクルトだが、クジを外した巨人が2、3位で社会人捕手を指名していることから、捕手としての評価も非常に高かったに違いない。
会見では入学後から「ライバル」と騒がれた清宮や、同じ捕手で1位指名を受けた甲子園6本塁打の中村、同じ左の長距離砲・安田尚憲(履正社→ロッテ1位)ら同年代の選手について聞かれることも多かった。冷静かつ無難に記者からの質問に答える村上だったが、ドラフト前の取材では正直に胸の内を明かしてくれている。
「今は向こうの方が明らかに上です。清宮や増田、安田、西浦らは甲子園という結果を残していますからね。その点、自分は実力不足でたったの一度しか甲子園に辿りつけていません。いつかは清宮と本当のライバルと言われるだけの存在になりたいし、将来的には数字で清宮に勝ってタイトルを獲りたいです。結果で自分が上位だということを証明したいんですよ」
小川監督はその後、「サードや外野にも挑戦させたい」と発言した。村上自身が秋から外野守備を始めたことも、今回の高評価につながったという話もある。
しかし、パワーとスピード、そして高い守備力。今までプロ野球の世界ではあまり見ることができなかったニュータイプの捕手像に精いっぱい挑戦してほしいとも思う。次から次に現れる最高のライバルの存在を糧として、村上は神宮の杜から黄金世代の主役に躍り出るつもりだ。
(※本稿は2017年11月発売『野球太郎No.025 2017ドラフト総決算&2018大展望号』に掲載された「28選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・加来慶祐氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)