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野球の裾野を広げるという独立リーグの役割とその葛藤

【この記事の読みどころ】
・発展途上国の選手が野球に挑戦することは美しいがその実態は……
・選手の受け入れは独立リーグじゃないとできないこと
・彼らが母国に帰ってから野球を根付かせることができるかどうかが本当の課題だ


 「野球不毛の地」、と俗に言われる国々から、中でも発展途上国から、独立リーグが選手受け入れを始めたのは、いまに始まったことではない。2006年、南部アフリカ・ジンバブエ出身のシェパード・シバンダが香川オリーブガイナーズに入団したのが最初のことである。彼はその後、2008年に福井ミラクルエレファンツに移籍し、その年限りで母国に帰り、現役を引退している。

 その後、関西独立リーグにネパール人やウガンダ人の選手が入団し、各々の国「初のプロ野球選手」と報道されたが、無給のこのリーグへの入団を「プロ野球選手誕生」とは呼べないだろう。

 ゾーゾー・ウーやサンホ・ラシーナの例を含めて、途上国出身選手の独立リーグ入りの背景には、選手を援助する日本人やNPOの存在があり、受け入れる独立リーグ側の動機にも、国際貢献によるリーグの価値向上や話題作りの側面があることは否めない。「プロ野球選手誕生」は、メディアに自らの活動をアピールする格好のアイコンになるのだ。その一方、現実には、彼らが各々のチームで戦力となっていると言うことは難しい。

ミャンマー代表のエースでも……


 香川オリーブガイナーズのウーは、母国・ミャンマーでは代表選手として、アジアカップ、東南アジア選手権出場と、輝かしい球歴を誇っているが、その「野球不毛の地」での活躍も、野球大国・日本ではなかなか通用しない。


 昨季、2年目にして「プロ初勝利」を挙げた。しかし、この試合には、プレーオフに向けた投手陣の調整という色彩が強く、実に7人の投手が登板おり、ウーはリリーフで1つアウトをとっただけ。チームがリードしながら先発が5回投げずに降板した後は、勝利投手はある程度、公式記録員の裁量で決めることができるので、ある意味、話題作りのためしつらえた「勝利投手」と言えなくもない。

 通算の成績も16試合1勝1敗、防御率12.71。ルーキーイヤーは7試合で0勝1敗、投球回数は5回1/3、2年目も4試合の登板で投球回数2回2/3、防御率23.63では、戦力にはなっていない。今年も5試合で2回1/3、防御率19.29。正直なところ、ペナントの行方に影響のないところで、わざわざ登板の機会を作ってもらっている印象はぬぐえない。

アジアのために独立リーグだからできること


 それでも、国際交流の一環として選手の受け入れにも意義はあるというのが、リーグの見解だ。

「フットワークの軽い我々だからできるんです。野球のアジアでの裾野拡大をいち早く行うことが独立リーグの発展や収益拡大につながっていくと思います」

 ウーの獲得について、四国アイランドリーグplus・CEOの鍵山誠氏はこう言う。瀕死の状態のアイランドリーグを引き受け、10年間の歴史を積み上げたビジネスマンは、リーグ存続のための1つの方策として「アジア戦略」を思いついた。

「今、東南アジアには富裕層が誕生しています。普通の日本人よりよほど金持ちですよ。野球は彼らにとってアメリカ生まれのクールなスポーツ。そういう地域に野球を根付かせるため、現地での普及活動の中で野球を始めた選手を受け入れることは将来につながります」

 現在、東南アジア各地に富裕層向けの野球アカデミーが誕生しているという。鍵山はそういう層を四国に呼び寄せるサマーキャンプの構想も持っている。

 そのような経営陣の考えは、現場にどう反映されているのだろうか。
 投手として、イロハのイからウーに手ほどきをしたコーチの伊藤秀範は、独立リーグの役割に理解を示す。

「純粋に戦力という見方をすれば、正直苦しいです。でも、野球途上国の選手をこうやって引き受けるっていうのも、独立リーグだからできること。そのあたりは、最初から理解してました。母国へ帰った後、自分たちが身につけたものを伝えてくれればいいと思います」

 来日当初の球速は115キロ。伊藤は、とにかくウーを走らせ、体幹を鍛えさせた。その結果、ストレートは131キロを計測するようになった。

「リトルリーグから中学のクラブチームくらいですかね」

 伊藤はウーの3年間をこう表現した。

野球の底辺拡大には理解しつつも起用法に苦悩する監督や選手


 ブルキナファソ人、サンホ・ラシーナを受け入れた高知ファイティングドッグスの梶田宙社長も、アフリカからの選手受入れに理解を示す。彼は、昨年まで選手だった目線からもラシーナの成長に太鼓判を押す。


「来たころに比べれば格段によくなっていますよ。練習試合ではヒットも打っていますし。そもそもポテンシャルがすごいですから。経験を積めば、いい選手になると思います」

 しかし、現場の中には、戦力とはならない選手をベンチに置くことに対する否定的な意見があるのも事実だ。独立リーガーたちが目標とするNPBの第一線で長らく活躍してきた高知・弘田澄男監督の意見は手厳しい。

「ダメでしょ。常識で考えてごらんなさいよ。他の選手は、小学校から中学、高校とずっと野球やってきてる。ラシーナはここにきて(本格的に野球をやり始めて)3年でしょ。そりゃ、これから伸びるって言えばそうだけどね……。球団から使えとは言われないけど、本人にもかわいそうだから、試合に使うけどね」

 高知球団のある選手も、弘田同様、厳しい見方をしている。

「まだ若いから、これから伸びるかもしれませんけど。でも野球やったことないんだから、細かいルールはわからないでしょう。捕って投げる、というのはできますけど、それだけじゃないですから、内野手となると難しいですよね。

 やっぱり野球は試合に出て上手くなるものですから。ここでは試合に出ることも難しい。ホントに上手くなりたいのなら、もっとレベルの低い場所でやった方がいいのかな、と思いますよ」


 確かに、独立リーグとはいえ、プロである以上、一定の技量に満たない者をフィールドに置くべきではない、というのは正論である。現実には、彼らはその技量に達してはいないだろう。

 しかし、野球の裾野拡大に貢献するというリーグの運営サイドの姿勢も理解できるし、彼ら異色の外国人選手の存在が独立リーグの認知度を上げ、観客動員にも多少はプラスの効果を発揮していることも確かだ。この問題の是非は、いま出るものではなく、将来、彼らが母国に帰って、日本から持ち帰った種を花咲かせたときに出るのだろう。


文=阿佐智(あさ・さとし)
1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。ブログ「阿佐智のアサスポ・ワールドベースボール」(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/gr009041)

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