野球がない日はつまらない! 試合が気になって仕事が手につかない! そんな熱烈プロ野球ファンの生態を調査する連載企画「そこまでやる!? プロ野球ファンの生態レポート」。第1回(前編、後編)に登場してもらうのは、日々、多忙な仕事をこなしながらも足繁く球場に通い詰める野球女子のAさん(30代前半、ヤクルトファン)とBさん(20代後半、ソフトバンクファン)。2人はともに同じIT企業で働いている。
昨年、Aさんは神宮球場でのすべてのヤクルトホームゲームの他、遠征も含めると75試合を観戦。Bさんは関東でのソフトバンク戦を中心に50試合を観戦した。
“何をおいても野球!”とばかり、夕方になるといそいそと姿を消したがる筋金入りの野球女子が2人もいて、会社は何も言わないのだろうか……、という疑念はさておき、彼女たちが球場観戦のトリコになったきっかけ、球場での“私のチェックポイント”、今季のベストゲーム&ベストプレーなどなど、“野球とともにある日々”を聞いてみた!
Aさんは、もともとサッカーファンだったという。当時のお気に入りの選手はフィリッポ・インザーギ(現ボローニャFC監督)。1990年代半ばから2010年代初頭にかけて活躍したイタリアサッカー界きってのイケメンスターだ。
Aさんは、インザーギがユベントスからACミランに移籍するに従って、応援するチームを変えた。ユベントスとACミランは、野球に例えると巨人と阪神。禁断の“乗り換え”も“インザーギこそすべて”の前では無力だった。
「やっぱりインザーギ! チームを応援していたわけではないので」
在りし日をこのように思い浮かべ、目をハートマークするAさんだが、その心を奪う野球選手がさっそうと現れる。2009年、第2回WBCで見た青木宣親だ。
「国際大会だから応援しなきゃってWBCをテレビで見ていたら、なにこの人、カッコいいって(笑)。そうしたら少し経った頃に、友達から『屋外でお酒を飲んだり、傘を振ったり、神宮球場で野球を見るのは楽しいよ』と誘われて、いそいそとかけつけてみると、なんと青木が先頭打者ホームラン。運命の出会いに感動しました(笑)」
さすが、球界きってのリードオフマン。最高のおもてなしを決めてみせた。これは2009年6月6日、ヤクルト対楽天でのことである。ちなみに運命の出会いとなる本塁打を献上したのは岩隈久志(現マリナーズ傘下)だった。この頃、インザーギは引退への花道を歩き出していた。インザーギ、アウト。アオキ、イン。インザーギはAさんのハートを青木に託した、のかもしれない?
こうして青木のおっかけとしてのヤクルト観戦が始まる。しかし、青木は2012年に渡米。インザーギの例を見ると、青木がいなくなったヤクルトに興味はないはずだが。
「最初は青木だけが好きだったんですけど、一生懸命応援しているうちに、ヤクルトの皆に愛着が湧いてきて。ヤクルトが面白いのは、すごく強いわけじゃないけど、たまに強いところ。それに、バレンティンが王(貞治、元巨人)さんの記録を抜く60本のホームランを打ってMVPに選ばれたり、ライアン(小川泰弘)が16勝で最多勝と新人王を獲った2013年のように、ビリなのに見せ場を作るときがありますよね。負けてても面白いじゃんって。まんまとドツボにはめられた感じがしますが(笑)」
Aさんは、長く選手を観続けているうちに「あの子がこんなに立派になって」と母性本能をくすぐられることが多くなったという。その筆頭は「あんなに垢抜けない子だったのに」と振り返る、トリプルスリー&右打者最多安打男の山田哲人だ。
なお、Aさんが神宮球場の外野席で好んでまとうユニフォームは、当時の青木のビジターユニ。ナゴヤドームで買ったものだ。2017年シーズンオフ、そんなAさんの変わらぬ愛がアメリカに届き、運命の男・青木はヤクルトへの復帰を決意した(のか?)。
使い込んだ青木のタオルの裏地には渡米前の青木のサインが。風合いが歴史を感じさせる
もう1人の野球女子、Bさんもサッカーファンだった。野球ファンになったきっかけを作ったのは、たまたまもらったオープン戦のチケット。2015年3月のことだ。東京ドームでの巨人対日本ハム、大人になって久しぶりに訪れた球場。2階席から見渡した風景は、とても心地よかった。
Aさんにとっての青木のように、ここでも野球へと誘う役者がいた。この試合では大谷翔平が投げ、レアードが本塁打をかっ飛ばす。試合は僅差で盛り上がった。たった1試合でBさんは球場観戦のトリコになった。
「明日も行こう! その日のうちにチケットを買って、翌日は神宮球場にいました。今度はバックネット裏のいい席。野球や球場の見え方が違って面白いなって思いました」
ここからBさんの日本ハムおっかけが始まったのだが、今はソフトバンクファンですよね……。
「ホークスの石川柊太が中学の同級生なんです。育成から始まって、2017年には1軍で活躍。有名選手を抑えていてすごいなって。中学時代はメガネで背が低くてマルコメ君みたいだったのに(笑)。そうしてソフトバンクの試合も気になって見るようになったんですけど、そうしたら上林(誠知)がカッコよくて」
同級生・石川をきっかけにソフトバンクに情が移ったBさんのハートを上林が射止める。
「私は肩の強い選手が好きなんです。上林は2017年の補殺率1位。外野手の補殺ってなんかカッコいい。見ていて、盛り上がりますよね」
上林のレーザービームで日本ハムの走者は本塁で憤死。ソフトバンクが日本ハムに競り勝った。Bさんは2017年が移行期で、2018年から本格的にソフトバンクへと乗り換えた。
球界屈指のレーザービームでBさんを射止めた上林のユニフォーム。もちろん観戦中はこのユニをまとう
球場に足繁く通う野球ファンには、それぞれ球場内でのルーティンがある。自分なりのチェックポイントがある。好みの過ごし方、球場メシがある。Aさんも、Bさんも筋金入りの観戦者だけに、筆者としては、試合前練習のチェックポイント、つまりマニアな視線が気になるところ。まず、Aさんにポイントを聞いてみた。
「ヤクルトの選手は調子のいい人とアップするのが好きみたいなので、今日は誰の回りに集まっているのかなとチェックしますね」
今季、好調のバレンティンは寄ってこられると嫌がりそうだが……。
「いや、バレンティンが運をもらいに寄っていくことが多いですね(笑)」
バレンティンの動きを見ていれば、活躍しそうな選手がわかるということか。
「あとスタメンがガラガラ変わるシーズンがあるので、そういう時は守備練習の位置でスタメンが予想できます。あっ、今日はスタメン落ちだなとか。それを楽しんでいます」
ヤクルトファンになったばかりの人が球場観戦するときは、このチェックポイントをお忘れなきよう。
Bさんは日本ハムをおっかけていたときから、練習を見るのが好きだったという。
「練習中のリラックスしている選手の姿を見るのが好きなんです。ホークスだと甲斐拓也がけっこうウロウロしていて、コーチや他の選手にいじられているんですけど、試合中の強肩でランナーを刺すカッコよさとのギャップが可愛いなって(笑)」
これがギャップ萌えというものか。Bさんは練習をゆっくり眺めるため、できるだけ試合開始2時間前には球場に着くようにしている。
なお、球場メシに話を向けると、Aさんは神宮球場限定の選手プロデュースグルメを「お布施」と思って食べていると。今年だとケンタッキーフライドチキンと石川雅規がコラボした「勝男!石川雅規のビクトリーカツサンド」、フレッシュネスバーガーと中村悠平がコラボした「クラシックムーチョバーガー」etc…。これも応援の一つの形らしい。
BさんはZOZOマリンスタジアムを訪れた際に、バックスクリーン裏の売店にあるモツカレーを食すのが、毎回楽しみらしい。「もつ煮」でも名を馳せてきた球場らしい一品だ。
後編では、球場巡りにまつわるアレコレ、ベストゲーム&ベストプレー、仕事との折り合いの付け方、球場観戦の醍醐味などを聞いていく。お楽しみに!
取材・文=山本貴政(やまもと・たかまさ)