第6回[特別編]来日記念! おさえておきたい、キューバ代表基礎知識
2012/11/12
「野球なんでも名鑑」は、OBを含む全てのプロ野球選手、アマチュア選手たちを、さまざまな切り口のテーマで分類し、テーマごとの名鑑をつくるコーナーです。各種記録やプレースタイル、記憶に残る活躍や、驚くべき逸話……などなど、さまざまな“くくり”で選手をピックアップしてきました。
今回は[特別編]として、来る16日(金)、18日(日)に行われるキューバとの「侍ジャパンマッチ」(国際強化試合) にちなんで、キューバ代表チームをこのコーナーで取り上げたいと思います。
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キューバ代表といえば、ご存知の通り、国際大会で必ず日本の前に立ちはだかってきた最強ライバル国の1つ。メジャーリーガーともひと味違う豪快な野球を見せてくれる存在だ。ただ、普段は接点も報道もあまりないため“豪快”ということ以外は印象が薄かったりもする。そんなキューバではあるが、来春のWBCの1次ラウンドで、
侍ジャパン(日本代表) との対戦が決定し、さらには今週末には強化試合が行われる。彼らはいったいどんなチームなのだろう? ということで、キューバ野球にくわしいジャーナリスト、羽田正明さんにポイントを絞ってその特徴をお聞きしてきた。最後にはちゃんと選手情報もあるので、お楽しみに。
POINT 1 メンバーのレベルを落として試合に臨むということはない
今回の代表チームについて最初に思ったのは、来年3月に公式戦で戦う日本代表に、手の内を明かすようなことをするものだろうか? という疑問。
「キューバにとって国際試合は、野球という文化を世界に広げるという意味合いもあります。だから、メンバーを落として臨む、などということはしませんよ。手の内を隠す? 日本のような細かい野球を好む国ならそういう発想もあるかもしれませんが、中南米ではそこまで気をつかうことはほとんどありません」
今回の代表チームを見ても、主力には実力派をそろえてきており、メンバーを落とした印象は受けない、とのこと。
「ただ、若手を少し多くそろえました。今回のチームは平均年齢で26.8歳。これは前回(2009年)のWBCのときの28.3歳と比較すると1.5歳も若い。これは、手の内を隠すというよりも、若い選手に国際経験を積ませようという意図があると思います」
今回は「メンバーを落とさない範囲で、若い選手にもチャンス与えるための布陣」といったところ。確かに、ことある度ごとに海外に行く機会がある日本人選手と違って、キューバの選手のそういった機会は限られていそうだ。常夏で、国内地域による環境の差もあまりないので異なる場でパフォーマンスを発揮するための経験は、海外に行くしかない。海外遠征は戦いであると同時に選手たちに経験を積ませる場でもあるのだろう。
POINT 2 国内リーグが開幕直前
日本代表の投手陣も若い選手が中心となっている。強化試合は彼らにとっての「テストマッチ」だとも見られているが、やはりキューバ代表の若手選手にとっても、そういう意味合いで、やたらとアピールに燃えている、なんてことがあるのだろうか?
「今回の強化試合は日本では2試合しかないので、そうした選手に出場機会があるかどうか…。それともうひとつ、キューバ国内リーグは開幕直前なのを忘れてはいけません」
つまりこういうことだ。キューバでは11月末から翌年の4、5月まで90試合のリーグ戦が行われるとのこと(3月のWBCには国内リーグを休止して参加する)。よって、日本の選手とは違い、彼らにはアピールの機会がまだ多くある。逆にこの強化試合でどんなに活躍をしても、国内リーグで成績を残せなければ代表入りは当然むずかしくなる。そう考えると、選手にとって強化試合は国際試合ではあるが、シーズンに向けた準備の一環でもある、というわけだ。
「キューバ代表の公式戦での集中力はすさまじいのはご存知のとおり。試合の後半に向けてどんどん高まっていくあの感じ、わかりますよね。それと同じレベルの集中力を、今回の強化試合で見せるということはないでしょうね。80、70%の集中力がいいところでは…」
このあたり、確かにそうだろう。メンバーは一線級だとしても、今回の強化試合の様子をそのままキューバの実力と思わない方がよいだろう。
POINT 3 注目選手
さて、ここからは29名のメンバーの中から注目すべき選手をピックアップし、羽田さんからのコメントベースに、紹介していく(成績は11-12シーズンの成績)。
「常連勢」→「中堅勢」→「抜擢勢」の順で掲載していく。
◆常連勢
29名のメンバーのうち、2006年の第1回WBC、08年の北京五輪、09年の第2回WBCのいずれにも代表として選出している選手が5名いる。このうちの2つの大会に参加している選手がさらに3名。そんな「常連」から注目選手をピックアップした。
Yadier Pedroso ペドロソ
投手(右投右打)/26歳/20試合/10勝6敗/129.1回/奪三振128/四球34/防2.64
直球とフォークで三振を取れる先発の軸。その他の変化球の精度も高い。大事な試合では抑えで出てくることも。“Ya”は「ジャ(ジャディエル)」発音すると正しい発音に近いのだとか。
Ismel Jiménez ヒメネス
投手(右投右打)/26歳/26試合/17勝5敗/185.0回/奪三振119/四球39/防2.48
ペドロソ、デスパイネ(後出)に次ぐと見られる先発投手。コントロールで勝負するタイプ。調子の波が見られるが、昨シーズンは17勝を挙げキューバ国内リーグの最多勝に。
Ariel Pestano ペスタノ
捕手(右投右打)/38歳/234打数/71安打/18本/.303/48打点/43四球/29三振/4盗塁
1999年から代表の正捕手を務めるチームの顔。38歳となり衰えも見えるが、16チームと戦うキューバ国内リーグで相手打者の情報を更新し続けてきた知能は代表に不可欠。二番手捕手との差はまだ大きく、今回もWBCに出場すると見られている。
Yulieski Gourriel グリエル
三塁手(右投右打)/28歳/321打数/104安打/22本/.324/85打点/61四球/34三振/14盗塁
現役11年で233本塁打を放っている実績十分のキューバを代表するパワーヒッター。昨シーズンの22本塁打はリーグ3位。三塁のレギュラーは堅いが、昨季は、成績に波があったという情報も。
Frederich Cepeda セペダ
外野手(右投両打)/32歳/232打数/70安打/10本/.302/59打点/22四球29三振/1盗塁
この選手も国際大会には欠かせない。国内リーグでは少し集中力を欠いたプレーもあったが、国際大会では抜群に強い。2度のWBCでは通算5本塁打を記録している。膝のコンディションがあまりよくないため、DHに入る可能性も。
Alfredo Despaigne A.デスパイネ
外野手(右投右打)/26歳/344打数/112安打/36本/.326/105打点/91四球47三振/4盗塁
キューバ国内リーグの昨シーズンの本塁打王。打点もトップで二冠王だった。現役8年間で200本塁打を突破しているキューバを代表する長距離砲。
◆中堅勢
2010年に日本で行われた世界大学野球選手権以降、代表に呼ばれるようになった選手たち。
Odrisamer Despaigne デスパイネ
投手(右投右打)/27歳/24試合/13勝8敗/169.1回/奪三振128/四球66/防2.60
先発としてはペドロソ続く2番手に入る。直球で押すピッチングで128奪三振はリーグトップタイ。2010年の世界大学野球選手権では代表入りしたがWBCは未経験。20代半ばから活躍し始めた遅咲きの選手。
José Dariel Abreu アブレイユ
一塁手(右投右打)/25歳/282打数/111安打/35本/.394/99打点/75四球40三振/1盗塁
A.デスパイネと並ぶ長距離打者。昨シーズンは本塁打王をA.デスパイネに譲ったが、首位打者を獲得。その前のシーズンは33本塁打に加え.453という驚異的な率を残して二冠王。打点だけ惜しくも2位に終わり三冠王を逃した。メジャーでも即クリーンアップを打てる選手という評価もあるが、父親が国を代表するスポーツ選手で、亡命は容易にできない家庭環境なのだとか。
Erisbel Arruebarruena アルエバルエナ
外野手(右投右打)/22歳/306打数/98安打/8本/.320/44打点/19四球39三振/10盗塁
若さを生かした守備範囲の広さと肩の強さが売りの内野手。2010年の世界大学野球選手権と昨年のIBAF W杯で代表入りを果たしている新世代。9番など下位打線を打つと見られる。
◆抜擢勢
五輪、WBC、世界大学野球選手権、IBAF W杯といった大きな国際大会でのプレー経験はないが、今回抜擢された選手は今回11名いる。その中から2名をピックアップ。
Pablo M. Fernández P.フェルナンデス
投手(右投右打)/22歳/35試合/7勝4敗/95.0回/奪三振70/四球23/防1.52
若きリリーフエース。35試合の登板で95イニングに達していることからわかるように日本でいうロングリリーフがほとんど。まだ5年目で、活躍し始めたのはこの3年。今季は防御率1位に輝くなどの成長が認められ、代表に選出された。
Darién Núñez ヌニェス
投手(左投左打)/19歳/20試合/5勝5敗/83.2回/奪三振61/四球59/防3.44
実質昨シーズンが1年目だった最年少左腕。目立った成績は残していないにもかかわらず選出されたのは「若さ」「左腕」以外の何か理由があるのか? 気になる投手。
POINT4 打高投低のキューバ球界
羽田さんによると、キューバ選手の成績を見る際には、国内リーグの環境に注意が必要とのこと。「キューバではしばらく打者有利の状況が続いています。日本の感覚に合わせるならば打率は.050〜.100くらい引いてもいいくらいかもしれないですね」>
昨シーズン、この状況を改めるべくボールの変更なども行われたという。ただそれでも、全17チームと日本よりもチーム数が多いとはいえ、3割打者は70人に達したというので、やはり打者有利なのは間違いなさそうだ。
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「WBCでは、今回代表に選ばれていない常連勢が、リーグ戦で活躍して再び入ってくる可能性はまだ十分ある」と羽田さん。
キューバは2006年以降の大きな国際大会で優勝は逃し続けているとはいえ、多くの大会で決勝までコマを進めている。「最近キューバは優勝できなくなった」とコメントするのは簡単だが、考えてみると有力選手のMLBへの流出が続き、また緻密さよりも豪快な野球を志向するキューバが、最終的にトーナメントで競われる大会で、決勝まで残る安定感を保っているのは凄いことなのだ。この抜群のポテンシャルの高さを、実際に球場で見られるチャンスが続くこのオフ。キューバ代表のプレーをぜひとも実際に確かめて欲しい。
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