今季の西武がここまで勝てるチームになった理由はいくつも挙げられるが、最大の要因は正遊撃手の確立だろう。強いころの西武には、石毛宏典、松井稼頭央(楽天)、中島裕之(現・宏之。オリックス)と確たる正遊撃手が存在していた。
しかし2012年に中島が退団して以降、レギュラーを任せられる遊撃手がなかなか現れなかったことでチームは魂が抜けたようになり、あれよという間にBクラスに転落していく。
それが今季、きら星のごとく現れたルーキーが正遊撃手の座をさらっていった。トヨタ自動車からやってきたドラフト3位の源田壮亮である。
ドラフト当時の源田は「守備の人」と評されていたが、オープン戦で打率3割台と結果を残すと、西武の新人遊撃手としては石毛宏典以来となる開幕戦スタメン出場。当初の打順は9番だったが、5試合目で2番に座ると期待に応え、最高で打率.316を記録。守備だけではないところを見せた。
守備は逆にパ・リーグの遊撃手で唯一の2ケタエラーとなる14失策を記録し、もともとの売りである守備力での課題が浮き彫りになっている。
とはいえ全イニング出場を続け、随所に評判通りの高い守備力も見せている。そして、代役ではあるがオールスターにも出場と、お釣りが出るほどの活躍ぶりだ。Aクラスをがっちりとキープしているチームの現状を見ると、やはり西武には芯の通った正遊撃手が必要だ。
また、若手野手の台頭も見逃せない。いわゆる今の西武は世代交代がうまくいっているのだ。
2008年の日本一組であり、長年、主力として出場してきた中村剛也と栗山巧の同期コンビも気づけば今年でもう34歳。中村は24本塁打を打っているが休みがちになっており、栗山も年々成績が微減していることから新戦力の育成は懸案事項だった。
とはいえ、中村も栗山も稀有な存在。代わりを務められる選手はそうそういない。そこに中村には25歳の山川穂高、24歳の外崎修汰という後継者が現れ、結果を出し始めたことから、2人の不在時も戦力がガタッと落ちることが少なくなった。
山川に至っては、体型的にも「おかわりくんを継ぐもの」としての期待がかかっていたが、絶妙なタイミングでの登場となった。
外崎の外野手起用は源田との正遊撃手争いから脱落した副産物とはいえ、持ち前の走力を生かした外野守備は、もともと外野が本職だったかと思わせるようなプレーぶり。またプロ入り初の2ケタ本塁打を放つなど、打撃も目下急成長中だ。
偶然の要素も大きいが、それぞれが収まるところに収まったことで、ムリなく起用できるようになった。それが好結果につながっているように感じる。
ちなみに8月29日の楽天戦での野手の平均年齢は26.1歳だった。
続いて、辻監督の野手の起用法について考えてみる。
先述した外崎を筆頭に、守備位置をコンバートした選手が多い今季の西武。源田が遊撃に座った影響が大きいが、例えば中村の不在時に永江恭平や呉念庭という遊撃手候補だった選手が三塁を守るシーンをよく目にする。
もちろん選手たちがプロで生き残るためのコンバート策だが、辻監督の現役時代の変遷と照らし合わせたとき、筆者的にはとても興味深い事象に感じられた。
というのも西武での現役時代の辻監督はリードオフマン、名二塁手として名を馳せたが、社会人時代は4番・三塁を務める選手だった。しかし、西武に入団した際、遊撃に石毛、三塁に秋山幸二、一塁には助っ人外国人がいたことから、手薄だった二塁手を目指すことになった。
辻監督は入団直後から「自分がプロで生きていくためにはどうするべきか」を模索し、その答えが二塁へのコンバートだったのだ。結果、今なお語り継がれる名手になったのだから、監督になった際にも「選手を生かす道」を考えながら起用しているのだろう。
今季、コンバートした選手がいきなり活躍したのは決して偶然ではない。強いチームで自分を生かす術を見いだした経験が、今、監督として役立っているのだと見る。
今季の西武野手陣にたくましさを感じるのは、筆者だけではないだろう。
昨季までの打線も強力だったが、選手層に厚みが増したことで二の矢、三の矢が飛び出るようになった。中村やメヒアが落ち込んでも、山川や森友哉が助けてくれるのが2017年のラインナップだ。
守備に関しても源田の加入で肝心要の遊撃問題が落ち着き、捕手・炭谷銀仁朗、二塁・浅村栄斗、中堅・秋山翔吾と強固なセンターラインを形成することができた。
源田一人の加入でここまで変わるのかと驚くこともあったが、今となっては西武の主事陣容は源田がやってくるのを待っていたような気さえする。
西武躍進の理由はこれだけでは終わらない。次回は再び「投手王国」を目指して動き始めた投手陣に迫る。
文=森田真悟(もりた・しんご)