週刊野球太郎
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file#017 内竜也(投手・ロッテ)の場合

『野球太郎』ライターの方々が注目選手のアマチュア時代を紹介していく形式に変わった『俺はあいつを知ってるぜっ!』
今回は中学軟式野球ライターの先駆者であり、『野球太郎』でも数々のプロ選手の取材をこなしている大利実さんに書いていただきました!


県立で「神奈川制覇」の夢を見せた投手


 横浜、東海大相模、桐光学園、桐蔭学園ら、私立の強豪がひしめく神奈川の高校野球。県立高校の夏の甲子園出場は1954年の鶴見工までさかのぼらなければならない。
 現在にいたるまで、「甲子園」の期待を抱かせる県立校がいくつかあった。その中のひとつが、エース内竜也を擁した県川崎工だ。2003年夏、県川崎工は内の3試合連続完封などで準々決勝に進むも、桐光学園に4対5の逆転負け。8回表まで4対2で勝っていたが8回裏にミスがらみで3点を失い、大会を去った。
 8回裏2アウト一、二塁から代一樹にストレートを右中間に打たれ同点。さらに一、三塁からのダブルスチールにキャッチャーが引っかかり、逆転を喫した。
 もし、桐光学園に勝っていたら…。内はそれだけの可能性を秘めたピッチャーだった。



細身の体から繰り出される速球


 内の名が県内に広まり始めたのは高校3年の春だっただろうか。2年冬が明けてから、ストレートの最速は140キロを超え、夏には145キロにまで達していた。同学年に、加藤幹典(県川和〜慶應義塾大〜ヤクルト)吉田幸央(県城郷〜ヤクルト)がいたこともあり「公立三羽烏」と呼ばれることもあった。
 しっかりと試合を見たのは3年夏の大会だ。第一印象は「細いなぁ〜」。今でもプロのピッチャーとしては細身だが、当時はもやしのような体だった。しゃべっていても、どこにでもいるような普通のお兄ちゃんで「野球選手」としてはどこか頼りない感じもあった。県川崎工も、決してガンガン練習する学校ではなかった。
 それでもマウンドにのぼると、とんでもない球を投げる。どこかに吹っ飛んでいきそうな腕の振りから140キロを超えるストレートを投げ込み、急激に曲がり落ちるスライダーをウイニングショットにしていた。

中学2年秋まではバスケ部


 なぜ、これだけの逸材が強豪私立に行かなかったのか。  これには裏がある。内は小学生のときは野球をやっていたが、川崎市立川中島中ではバスケットボール部に入っていた。理由は「坊主がいやだったから」と、とても中学生らしい。
 それが中学2年の秋、先輩から体育祭の応援団に半ば強引に誘われたことがきっかけで、野球部に入った。応援団をやる条件が「坊主」だったからだ。先輩の誘いは断れなかった。
 どうせ坊主になったんだから、野球をやろう。「入れてください」と監督に頭を下げた。当時の監督・高山裕一先生(現川崎市立西中原中)は内の第一印象を今でも覚えている。
「練習初日、キャッチボールの1球目を見て、『何だこれは!』と衝撃を受けました。腕のしなりが抜群でフォームもきれい」
 内はすぐにエースとなるも、3年春夏は勝てなかった。最後に秋に川崎市大会で優勝。「それが一番の思い出」と内は振り返る。もし、1年から中学野球部に入っていたら、もう少し早く結果が出ていたかもしれない。
 上部大会に出場していないため、内の存在が高校関係者に広く知れ渡ることはなかった。それでも、情報をかぎつけた数校が誘いには来ている。そんな中、内は県川崎工を選んだ。
「楽しくやりたかったんです。しばられた野球はイヤ。実際、強豪私立に入っていたら辞めていたと思います」
 結果的に、のびのびした雰囲気の県川崎工が合っていたのだろう。



ケガの多さがネック


 内は素材を高く評価され、ドラフトではロッテから1位指名を受けた。プロ入りしてからはや9年、主に中継ぎ・抑えとして113試合に登板している。2010年には日本シリーズで7イニング無失点、13奪三振と活躍を見せた。高校時代から武器にしていたスライダーに、磨きがかかっている。
 残念なのはケガが多いことだ。シーズンを通して1軍で活躍したことが、まだ一度もない。基礎体力のなさは、ルーキー時代から指摘されていたことだが、その影響もあるのだろうか。まだまだやれる男である。





文=大利 実(おおとし・みのる)/1977年生まれ、神奈川県出身。中学軟式野球ライターとして草分け的存在。著書に『中学の部活から学ぶ わが子をグングン伸ばす方法』(大空ポケット新書)がある。有料メルマガ『メルマガでしか読めない中学野球』も配信中。

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