始球式の主役はあくまで投げる人間であり、打者はおまけ。しかし、新庄にはそんな常識は通用せず、相手が小学生であろうと真っ向勝負。小学生が投じたボールを打ちにいき、安打を放ってみせた。
「敬遠球を打つ」に近い突飛さを感じるが、投げた方としては気のない空振りをされるよりもずっと嬉しいとも思えるので、まさに新庄のファインプレーともいえるか? 小学生にとってもいい記念になっただろう。
また、『スター・ウォーズ』の新作が公開された2005年には、ダース・ベイダーに扮して交流戦開幕試合の始球式を務めた。新庄にかかれば始球式も一大イベントになる。
2004年から2005年に渡って行ったのが、被りものパフォーマンス。カエル、スパイダーマンなど、様々なキャラを被って試合前のシートノックを受けた。ときにはチームメイトを巻き込んで、ゴレンジャーに扮したことも。
被りものをした日の試合結果は、4試合目まで3勝1分と不敗神話ができかけていたが、5試合目に西武に負けたことで、それ以降はパタリと行わなくなった。
「何をやっても許されるわけではない。結果が伴ってこそのお遊び」ということを自覚していたと思わせる潔さ。線引きがきっちりとできているからこそ、ファンも安心して楽しめたのだろう。
大掛かりなパフォーマンスも新庄の専売特許だ。
例えば「ファイターズ超満員作戦(43000プロジェクト)」と名付けて、ハーレーダビッドソンでグラウンドに入ってきたり、札幌ドームの天井からゴンドラに乗って降りてきたり、はたまた大きな箱を使ってのイリュージョンショーを繰り広げたりと、これから野球の試合が始まるとは思えない演出のパフォーマンスを見せた。
なかでもゴンドラを使ったパフォーマンスは、「空を飛んでほしい」というファンのリクエストが多いことに応えたという。
ただ、新庄は高所恐怖症。そのためリハーサルでは別の人間が行い、新庄はぶっつけ本番で臨んだが、見事に成功させてみせた。
ほかにも本塁打を打った際に「打法名」をつけるのも、新庄ならではのファンサービスだった。
日本ハムに復帰した2004年の5月10日、札幌ドームでのロッテ戦で打ったシーズン第6号が始まりで、そのときに命名したのは「もういいわ打法」。「もういいわ!」という気持ちで振ったらホームランになったことで、この名前にしたそう。
同年9月20日のソフトバンク戦で打った幻の満塁本塁打(喜びの余り前の走者を追い越してしまい結果的にアウト判定)のときは、「コメントなんかしてる場合じゃない打法」と命名……。
2005年6月15日の広島戦では、高橋信二(現・日本ハム捕手コーチ兼打撃コーチ補佐)、小笠原道大(現・中日2軍監督)に続いて、本塁打を打ったことから「みんなにつられちゃったよ打法」と名づけた。
ちなみに、この試合はダルビッシュ有(現・レンジャーズ)のプロ入り初先発試合でもあった。
そんななかで、極めつけのネーミングは、2006年4月18日のオリックス戦で放った「28年間思う存分野球を楽しんだぜ。今年でユニフォームを脱ぎます打法」だろう。
これは突然の引退宣言だった。新庄流のジョークだと誰もが思ったが、本人の意志は固く、本当に2006年限りでバットを置いた。
かしこまった会場で、神妙な顔つき引退会見をするのは新庄らしくない。このように引き際までエンターテイナーであり続けたからこそ、今なお愛されているのだろう。
ほかにもMVP宣言で臨んだオールスターゲームでホームスチールを決め、本当にMVPを受賞。また、襟付きのアンダーシャツでの練習で物議を醸すなど、「新庄劇場」は枚挙にいとまがない。
しかし、敗戦をきっかけに被りもののパフォーマンスをやめたように、勝利をしっかりと意識してプレーしている(大掛かりパフォーマンスの際も3戦3勝)。
楽しませて、勝つ。ヒーローとして、決めてみせる。だからこそファンは新庄のパフォーマンスを支持し、応援したのだ。
一見、遊び心に比重が置かれるように見えるが、成績とのバランスを考えた上でのパフォーマンス。思えば本塁打の打法名も、本塁打を打つからこそつけられるというもの。シーズン当初に引退を表明したものの、しっかり日本一に導き、若きファイターズナインに自信を持たせて、チームを去った。決して口だけではないのだ。
チャラチャラしていると見せかけて、掘り下げると実は深い。これそこが新庄の真の魅力だと感じている。
文=森田真悟(もりた・しんご)