プロ野球もストーブ・リーグに突入。今オフ、野球本業でメディアを賑わせている球団といえば阪神だろう。
「アニキ」こと金本知憲が新監督に就任し、今岡誠、矢野燿大ら、2003年の阪神躍進を支えたレジェンドたちが再び甲子園に集結。選手よりも人気が高いとも言われる「V首脳陣」が阪神を再び優勝へと導こうとしている。
2003年、阪神が18年ぶり優勝を果たしたのだが、その大きな原動力となったのは主砲・金本の加入だった。しかし、熱烈な阪神ファンの間では、もうひとつの要因があったと囁かれている。
それが2002年に公開された映画『ミスター・ルーキー』である。
2002年の阪神といえば、星野仙一監督が就任し、チームが徐々に変化しようとしていた年。そんな年に公開されたのが『ミスター・ルーキー』だ。
調子は上向きであったとはいえ、当時の阪神は1990年代からの暗黒期真っ只中。構想の時点では間違いなく万年最下位の泥沼だっただろう。
そんな状況下、日本映画界で働く虎党たちは禁断の発想をしてしまう。
「現実で優勝できないなら、映画の中で優勝させればいいじゃないか――」
そして、阪神タイガース全面協力のもとで作られたのがこの映画なのだ。まさにヤケッパチ。名助っ人“オマリー”と二文字違いのアレである。
ストーリーはいたって単純。高校時代にプロ注と騒がれながらもケガで野球人生を棒に振った主人公は、サラリーマンとして妻子ある身となっていたが、謎の中国人整体師により復活。覆面リリーフ投手、ミスター・ルーキーとして突如球界に旋風を起こす。
しかし、まず波紋を呼んだのがこの主人公、役者が長嶋一茂なのだ。ある程度の球を投げられる役者…という選考だったのだろうが、あろうことか宿敵・巨人のミスターの息子を選んだのである。
ちなみにこの映画、阪神は全面協力なのだが、憎き宿敵として描かれるであろう巨人からは協力を得られなかったようで、「東京ガリバーズ」というほぼ巨人のチームがライバルとなっている。
ライバル・ガリバーズの主砲は駒田徳広(元巨人ほか)が熱演。憎たらしいコテコテのライバル役は見事にハマっていた。
そして山あり谷あり、阪神はガリバーズとの優勝決定戦に駒を進めるのであった。
試合はもちろんビハインドの展開。駒田演じる武藤の本塁打で1点リードされた阪神は、7回裏2死満塁で特別出演の“代打の神様”八木裕が凡退。8回裏にはこちらも特別出演の桧山進次郎が凡退するという血も涙もない展開。
しかし、架空の主砲・多田(応援歌は和田豊、役者は元阪神の嶋尾康史)がヒットを打ったところで事件は起こる。
橋爪功演じる監督は代打を告げ、「2人目のミスターや」とベンチ裏を指差すと、ランディ・バース(本人)のご登場と相成るのだ。
これにはコーチや解説席の田淵幸一(本人)もビックリ仰天。明らかに補強期間外で、ビックリ度合いから察するに選手登録されていたのかも怪しいが、「選手登録されていない選手が代打で出たため没収試合!」になるはずもなく、バースは起死回生の逆転ホームラン。
そして、9回表にはミスター・ルーキーが覆面を脱いでマウンドに上がり、最後のバッターであるライバル・武藤(駒田)がライトに大飛球を放つ。
それを“レフト”桧山がフェンスに激突しながらジャンプ一番のファインプレーでゲームセット。“レフト”桧山が、ロッテ・岡田幸文ばりの好捕で優勝を決めるのだ。
当時は阪神ファンですら、「こんなモンあるかい!」と笑い転げながら見たエンターテイメント映画だったが、公開の翌年になんと阪神は優勝。夏場には“優勝祈願”と銘打たれ、地元・朝日放送で放映されるなど、“縁起物”のありがたい映画に大出世を遂げた。
ちなみにこの映画、プロ野球選手役に大阪ガスの選手を起用しており、のちに阪神の左のエースとなる能見篤史も「打ち込まれる中継ぎ投手」の役で出演していた。
2003年の再来を期待するならば、今こそ続編制作のときではないか。虎党映画関係者の英断にぜひ期待したい!
文=落合初春(おちあい・もとはる)