4月15日に行われた広島との5回戦。阪神の先発・青柳晃洋にとって、1回表の先制攻撃は、「わけがわからないまま終わった」というような印象を受けるほどの一瞬の出来事だった。
初球のカウント球を逃さず、センター前にはじき返した1番・田中広輔のヒットが悪夢の始まりだった。
続く、菊池涼介はバント。一塁走者の田中がスタートダッシュの利いた好走塁で捕手・梅野隆太郎の野選を誘う。丸佳浩はしぶとく四球を選び、無死満塁。ここで、4番・鈴木誠也の当たりはボテボテのピッチャーゴロとなり、ダブルプレーかと思われた。
しかし、本塁送球を焦った青柳がこの打球を取り損ね1点を献上してしまう。田中の鋭い走塁が頭に焼きついて、リズムを崩したのだろう。そんな先制パンチだった。
この後、青柳は1死からエルドレッドには死球で押し出し、天谷宗一郎にタイムリーを打たれ、初回から打者一巡で一挙4点を失うことになる。
足でかきまわし、走者が溜まったら長短打で一気に本塁に還す。相手投手のリズムを崩し、主導権を握る。まさに今シーズンの「カープ野球」が見られた攻撃だった。
4月16日の6回戦。この日は、阪神が一矢報いた。
広島の先発は、開幕から2連勝と成長著しい九里亜蓮。対する阪神の先発は、前回登板の巨人戦で好投するも勝ち星に恵まれなかった能見篤史だ。
今シーズンの広島と五分に戦うには、終盤まで投手陣が踏ん張る必要がある。打ち合いになると、破壊力はすさまじいからだ。
この日は、能見が5回まで1失点で踏ん張り、6、7回を桑原謙太朗がパーフェクトに抑える好投を見せた。
試合が動いたのは1対1で迎えた8回裏。1死から高山俊がセンター前ヒットで出塁。九里の執拗な牽制をかいくぐり、二盗を決め、原口文仁のタイムリーで生還。貴重な決勝点をもぎとった。
試合は2対1で阪神が勝利。ロースコアの接戦に持ち込み、終盤の勝負どころで広島のお株を奪う足を使った攻撃を見せ、完璧に抑えられていた九里から虎の子の1点を奪いとったのだ。
この6回戦では、ルーキーで左打者の糸原健斗を1番でスタメン起用。阪神は1番・糸原から6番・鳥谷敬まで5番の原口を除いて、5人の左打者を並べた。
これは、左打者への被安打率が高い九里対策。そして、中継陣に左投手がいない広島唯一の弱点をついた策でもあった。
この日の九里は左打者のインコースを厳しく攻めていたため、左打者も手をこまねいた。
しかし、勝負を決めた8回。広島ベンチは左投手にスイッチできず、120球以上投げていた九里を続投させたことは、左打者を並べた打順の効果が表われたともいえる。
今シーズンのカープは、本当に強い。「カープの好調は鯉のぼりの季節まで」と揶揄されたのは、昔の話だ。
スキを見つけ、戦略的に戦わなければ他球団は置いていかれるに違いない。ペナントレースを盛り上げるためにも、念入りな広島対策を立てて臨みたい。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。