「終わりなき時の輪」に浮かぶ高校野球。ネクストジェネレーション監督たちが今、芽を吹き出す
2014/9/9
高校野球は終わらない。観ても観ても終わらない。大阪桐蔭が持ち前の「粘っこく、しぶとい野球」で夏の甲子園の頂点に立とうとしていた最中に、地域によっては秋の大会が早くもスタート。10月にはセンバツ切符をかけた地区大会も控えている。
ファンにとっては休む間もないスケジュールだが、延々と続く「終わりのない時の輪」も高校野球の醍醐味だ。「1度きりの夏」を終えた球児は青春の残像を引きずりながら次の舞台へと歩みを進める。うち何人かは社会に揉まれ、経験を積み、再び高校野球の世界に指導者として戻ってくる。そして、戻ってきた者の人生ドラマが「歴史」の中に新たな息吹をもたらす(戻らなかった者もチクチクする「ひっかき傷」を胸にしまって、それぞれの現場で勤めに就く……)。
このように「終わりなき時の輪」を意識して、「監督(指導者)」「学校(地域性・地元感)」「人生」を観続けていると、高校野球はなんともスケールの大きい大河ドラマのような群像劇となり、観る者の人生に寄り添い出す。当然、ファンならご承知のことだろう……。
さて、『野球太郎』の「高校野球監督名鑑号」では「終わりなき時の輪」に浮かぶ高校野球の歴史に、今まさに新たな息吹をもたらそうとしている「ネクストジェネレーション監督」をピックアップしているが、今回はその5名を紹介したい。
●佐々木孝介(駒大苫小牧/北海道)
駒大苫小牧に再びの黄金期をもたらすべく、2004年夏初優勝チームのキャプテンが監督に就任。2014年春には「駒苫旋風」以来となる甲子園出場を果たした。高校野球界きっての男前&熱血漢としても有名な佐々木監督の心意気に期待したい。
●青?博文(健大高崎/群馬)
2012年のセンバツベスト4に続き、今夏の甲子園ではベスト8に進出。2回戦の利府(宮城)戦では11盗塁・10得点で圧倒。「機動破壊」を掲げた攻撃的な機動力野球は今、充実の時を迎えようとしている。全国制覇が視野に入ってきた。
●黒田学(富山第一/富山)
2013年夏の甲子園では好投手・宮本幸治(現法政大)を擁して富山県勢40年ぶりとなるベスト8を達成。富山の高校野球のレベルアップさせた立役者のひとりとして注目の青年監督だ。選手個々の判断力を重視するスタイルで新時代の甲子園常連校を目指す。
●重本浩司(延岡学園/宮崎)
2013年夏の甲子園で準優勝。選手たちの爽やかなプレーが鮮やかな記憶を残したが、喜怒哀楽に富んだ重本監督の熱いオーバーリアクションも観客の心を掴んだ。大舞台で結果を出す勝負強さも実証済み。情熱的な野球で宮崎県勢初Vを狙う。
●宮下正一(鹿児島実/鹿児島)
前監督の久保克之総監督の堅実な「鹿実野球」を継承。主将を務めていた選手時代(鹿児島実〜NKK[現JFE西日本])から圧倒的な統率力で名を轟かせていたが、今もただ者ならぬオーラは健在。近々、新時代の「鹿実最強軍団」を作りあげそうだ。
(ページの都合上、選からは漏れてしまったが、今夏の甲子園でハイブリッドな攻撃野球をみせてくれた敦賀気比(福井)を率いる東哲平監督の名前もネクストジェネレーション監督として挙げておきたい)
古き昭和の匂いを漂わせる監督たちが現役を退いていく中で、高校野球監督界は世代交代の時期を迎えようとしている。言わば、「新しい高校野球」が幕を開けようとしている。今年の秋はネクストジェネレーションを意識して、地方大会を眺めてみてはいかがだろうか。
また、「高校野球監督名鑑号」に掲載されている、師弟、ライバル、同級生同士でしのぎを削り合う激戦区・神奈川の監督たちの関係性を網羅した「神奈川の監督相関図」も読み応えあり。「終わりなき時の輪」に浮かぶ監督同士の交流の深さこそが、神奈川の高校野球が発展したベースにあることも見えてくる。ぜひご一読を。
■ライター・プロフィール
山本貴政(やまもと・たかまさ)/1972年3月2日生まれ。音楽、出版、カルチャー、ファッション、野球関連の執筆・編集・企画・ディレクションを幅広く手掛けている。また、音楽レーベル「Coa Records」のディレクターとしても60タイトルほど制作。最近、編集を手掛けた書籍は『ブルース・スプリングスティーン アメリカの夢と失望を照らし続けた男』、編集・執筆を手掛けたフリーペーパーは『Shibuya CLUB QUATTRO 25th Anniversary』、ディレクションを手掛けた展示会は『Music Jacket Gallery』(@新宿高島屋)など。
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