ロッテのエースを張り、メジャーリーグでも活躍した小宮山悟氏が2019年より母校・早稲田大の野球部監督に就任した。日本球界きっての投球技術を誇り、かつ、無類の負けじ魂の持ち主でもある小宮山氏は春のリーグ戦を終えて、選手たちに「もっとできるはずだ」と感じたという。また「正しい早稲田に戻す」とも言う。直に大学生に触れ、小宮山氏は何を感じたのか。若者の気質が変わりゆく今、それでも変わらず必要な姿勢とは何だと考えているのか。秋のリーグ戦への抱負も含めて話を聞いた。
――早稲田大の監督として初となる春のリーグ戦は3位に終わりました。この結果についてはどのようにとらえていますか?
小宮山 「もっとできるはずだ」という思いがあります。選手の顔ぶれを見てもほかの学校と比べて見劣りしないメンバーが揃っているので、個人の成績はそれ相応になっていますけど、チームとしてそれをいい形につなげることができなかった。そういった部分のコーディネート能力は監督として反省しなければいけないと思っています。
――就任当初から「正しい早稲田に戻す」ということを言われていますが、どういった点に重点を置かれているのですか?
小宮山 昔の早稲田大の野球部は世の中に認められていました。それが今どうなのかというと、私の耳には「それで早稲田の野球部なのか?」といった声がよく入ってくる。とにかく、そこをなんとかしなければという思いがありました。怒られるかもしれませんが、僕は勝たなくてもいいと思っています。本当に学生として早稲田の学生の鑑になるような選手を揃えることができたら、それでもう十分。さらに言えば、そういった人間ばかりになったら負けるはずがないですから。そういう理想を掲げてやっています。
――昔と今では、具体的に何が違うのでしょうか。
小宮山 まず、昔に比べて選手の取り組みが甘いと感じています。早稲田大がどういうところで何をしなければならないのか、ということを理解したうえでグラウンドに来ているのか。漠然と野球の練習をしているふうにしか見えなかったので、そこは一番直さなければいけないところだと思っています。今は「パワハラ」の問題で何でもアウトと言われる時代ですから、そういった面でも昔とはまったく違う。こんな時代が来ることを予想できた人はいなかったんじゃないかと思います。
――そんななか、監督としてどのように選手と接していますか?
小宮山 教えを乞う姿勢のある選手には教える。そういう気持ちが感じられなければ指導しません。教えてほしいと本人が思わなければ、たとえ教えても身につきませんから。もちろんひと通りの説明はしますけど、その先は選手次第というスタンスです。「現状の自分はこうで、だからこうなりたい」といったことを聞いてくる選手には手取り足取り指導をしますが、そうでない選手にああしろ、こうしろと言っても無駄。「とにかく、俺は無駄なことは大嫌いなんだ」と彼らには言っています。
――現状、実際に教えを乞うてくる選手はどのくらいいますか?
小宮山 それはもちろん、何人もいます。言葉を選ばなければいけませんが、試合に出て活躍してくれなければ困るレベルの選手もいれば、そのレベルには到達しないかもしれない選手もいます。でも、同じ思いでうまくなりたいと取り組んでいるわけですから、そこは平等に大事にしなければいけないと思っています。
――春のリーグ戦では、1年生の中川卓也選手を不振の中でも起用し続けました。これにはどんな意図や思いがあったのでしょうか。
小宮山 グラウンドで練習しながら毎日、どうすることがベストなのかを考えて起用してきただけです。起用し続けると最初から決めていたわけではないし、「育てる」という意図も二の次、三の次。今、この試合に勝つためにはどうすることがベストなのかという選択です。結果が出ていないだけで、結果が出るであろうという過ごし方をしてくれていましたから。
――長い目で見れば本人のためにもなる、という考えもあったでしょうか。
小宮山 本人のためになったかどうかはわかりません。結果が出ていないなかで、相当苦しんだでしょう。この経験を秋につなげられればいいですが、ひょっとしたら秋のシーズンが始まって「よーいドン」で打てなければ、また打てないかもしれない。この春を「いい経験」とできるかは、本人がどういうふうに考えているか次第でしょう。
――秋のリーグ戦へ向けて、抱負を聞かせてください。
小宮山 春の結果を踏まえたうえでどうすればいいのかというところを各々が考えて、レベルアップする夏をどう過ごすか。歯を食いしばって頑張ったら、たぶん勝つでしょう。歯を食いしばれなかったら、たぶんまたやられるでしょう。監督としては、歯を食いしばってやれということは強要しません。やるのは選手たちなので。春のリーグ戦、負けて悔しくなかったの? 負けて悔しいと思っているなら、へらへら練習してる場合じゃないんじゃないの? そういう訴えはしています。
――それができれば結果は自ずと出る、と。
小宮山 もちろんです。本当に悔しいと思っていたら、改善されるはずですよ。春のリーグ戦のような屈辱的な敗戦をすることはないと思います。負けたとしても何とかしてやろうという気持ちがスタンドから見ている方にも伝わるような、そういう戦いぶりになるはずです。監督としてそういう指導を怠ってはいけないという一方で、勝つとか負けるではなく、どれだけ勝つための執念を見せられるか。そのための練習をグラウンドでどれだけできるか、という話だと思っています。
取材・文=本多辰成(ほんだ・たつなり)