熱戦が続く甲子園で鳴り響く「カキーン!」という金属バットの音。もはや夏の風物詩といっても過言ではない、この金属音を生み出す金属バットは、1974年の第56回大会から使用が開始された。野球規則には「アマチュア野球では各連盟が公認すれば、金属バットの使用を認める」とあり、高野連がこれを認めているので、今では甲子園出場全選手が使用している。今回はこの金属バットについて、様々なうんちくを紹介しよう。
折れやすい木製バットを使うよりも経費を節減できる、また、減り続ける木材資源の保護にも役立つ、という理由で、高野連が使用を認めた金属バット。最初の第56回大会では出場した代表34校は全校が試合で使った。しかし、選手全員が金属バットを使うチームもあれば、たった1人しか使わなかったチームもあるなど、様々だった。
その後は経費節減という理由よりも、バットの根元や先端に当たっても折れることがない、さらに、金属バットのほうが「芯」が広く手がシビれにくいので思いきりスイングできる、木製バットと比較して飛距離が出る、という理由で、現在では当たり前のように全選手が使用している。
約40年前から使用された金属バット。ボールがバットに当たる回数は3000〜5000回が寿命といわれているが、なかにはすぐに凹んでしまうものも市場に出回っており、高野連では試合前、必ずバットのチェックを徹底している。
また「カキーン!」という金属音が耳に響き、選手や球審への聴力障害を招いたり、さらにはその音が周辺の住宅地の迷惑になったり、と問題になったこともあった。そのため、1991年からは甲高い音が出ない“消音バット”が採用されている。
他にも、飛距離を追求するあまり、ヘッドが重く、ミートの瞬間によくしなる金属バットも考案された。ただ、この種のバットは軽いこともあって折れやすく、その折れ方が極めて危険なため、高野連は製造メーカーに自粛を求めた。
音の問題も含めて、これまで幾多の改良が加えられてきた金属バット。もう1つの問題が、使用済みバットの処分方法だ。学校によって使う本数は異なるが、現在では年間約10万本の金属バットが製造され、それに見合う分だけ処分されているという。
バットに使うアルミの原料はほとんど輸入に頼り、アルミ管を作るメーカーごとに合金の特殊な成分が異なるため、使用済みバットを溶かして再び金属バットに利用することはできない。さらに、グリップに巻き付けたテープを剥がし、バットの先端キャップや消音材を取り除く作業もあるため、金属回収業者には敬遠され、不燃物粗大ゴミになるか、土の中に埋められるのが運命であった。
しかし、1990年代頃から再利用化の声が高まり、メーカー側もこれに協力。そのまま溶解して、製鉄工程の中和剤などに活用されるようになった。「バットを溶かして、またバットを作ることはできないの?」と思われるかもしれないが、金属バットの主な成分のジュラルミンは合成が難しく、単純に溶解しても同じ成分にはならないそうだ。
現在では、車のエンジン部分、特にハイブリッド車で再利用されることが多いという。もしかしたら、あなたの愛車のエンジンには、甲子園を沸かせた伝説のホームランを生んだバットが眠っているかもしれない。