「センバツならではのもの」といえば前年のヒット曲が使われる入場行進曲。今回は過去30年の入場行進曲を眺めながら、それらのヒット曲や歌手にスポットを当てることでセンバツを振り返ってみたい。
「歌は世につれ、世は歌につれ」というフレーズがあるが、全国津々浦々に根を張る高校野球も国民的スポーツとして、歌と同じように世相を反映してきた。
各大会の優勝校もあわせて振り返りながら、「あのとき」の記憶を蘇らせてほしい。
◎1987年から1996年の入場行進曲
■1987年
「CHA-CHA-CHA」石井明美
優勝校:PL学園(大阪)
ラテン風味のユーロビートがウケた「CHA-CHA-CHA」はテレビドラマ『男女7人夏物語』の主題歌。優勝校は立浪和義(元中日)らが集ったPL学園。この年のPL学園は春夏連覇を達成し、史上最強世代と呼ばれた。
■1988年
「夢冒険」酒井法子
優勝校:宇和島東(愛媛)
おニャン子クラブ全盛期にピンのアイドルとして奮闘した酒井法子だったが……。大会は故・上甲正典監督率いる宇和島東が初出場で初優勝。
■1989年
「パラダイス銀河」光GENJI
優勝校:東邦(愛知)
ローラースケートを履いて踊る衝撃のスタイルで登場した光GENJI。作詞作曲は飛鳥涼(ASKA)が手掛けている。この年の決勝戦では、元木大介(元巨人)のいた上宮(大阪)を、東邦が延長10回・逆転サヨナラで破った。
■1990年
「約束」相川恵里
優勝校:近大付(大阪)
「約束」は1990年に開催された「国際花と緑の博覧会」のテーマ曲。センバツを主催する毎日新聞社が公募した歌詞を元にしている。大会は近大付が初優勝。この大会の準決勝2試合は、東海大甲府(山梨)対近大付が延長13回、新田(愛媛)対北陽(大阪)が延長17回という大熱戦となったことでも有名。
■1991年
「おどるポンポコリン」B.B.クィーンズ
優勝校:広陵(奈良)
アニメ『ちびまる子ちゃん』のエンディングテーマ「おどるポンポコリン」。B.B.クィーンズには知る人ぞ知るブルースマン、近藤房之助がいたことでも話題に。決勝では広陵が松商学園(長野)を劇的なサヨナラで下した。
■1992年
「どんなときも。」槇原敬之
優勝校:帝京(東京)
「どんなときも。」は織田裕二の主演映画『就職戦線異常なし』の主題歌。「J-POP」という言葉を作った曲のひとつ。優勝校は帝京。この大会からラッキーゾーンが撤去されたが、星稜の松井秀喜(元ヤンキースほか)は、スタンドへ3本の本塁打を放り込んだ。
■1993年
「今ありて」谷村新司
優勝校:上宮(大阪)
「今ありて」は3代目のセンバツ大会歌。作詞を手掛けたのは熱心な高校野球ファンで知られる阿久悠。優勝は上宮。4年前のセンバツ決勝で敗れた悔しさ晴らした。準優勝は初出場の公立校・大宮東(埼玉)。
■1994年
「負けないで」ZARD
優勝校:智辯和歌山(和歌山)
応援ソングの決定版「負けないで」が入場行進曲に。ZARDのボーカル・坂井泉水はメディアに登場しないミステリアスな歌い手だった。大会は智辯和歌山が常総学院(茨城)を決勝で下して初優勝。
■1995年
「がんばりましょう」SMAP
優勝校:観音寺中央(香川)
「がんばりましょう」は人気クイズ番組『なるほど! ザ・ワールド』のオープニングテーマ。阪神・淡路大震災の2カ月後、地下鉄サリン事件の5日後に開幕した大会は観音寺中央が初出場初優勝を飾った。
■1996年
「TOMORROW」岡本真夜
優勝校:鹿児島実(鹿児島)
「TOMORROW」は田中美佐子が主演したドラマ『セカンド・チャンス』の主題歌。大会は九州きっての名門校・鹿児島実が悲願の初優勝を飾った。
■1997年
「これが私の生きる道」PUFFY
優勝校:天理(奈良)
「これが私の生きる道」は資生堂「ティセラ」のCM曲。当時、奥田民生の秘蔵っ子的イメージが強かったPUFFYの最大のヒット曲で、もちろん作詞作曲は奥田民生。大会は天理がセンバツ初優勝。夏の2度の優勝に続いて、春の頂点にも立った。
■1998年
「硝子の少年」KinKi Kids
優勝校:横浜(神奈川)
「硝子の少年」はKinKi Kidsのデビュー曲。松本隆(作詞)と山下達郎(作曲)という日本ポピュラーミュージック界が誇る両雄が手掛けた曲だ。優勝は松坂大輔がエースの横浜。「怪物伝説」が幕を開けた春だった。
■1999年
「長い間」Kiroro
優勝校:沖縄尚学(沖縄)
「長い春」は沖縄出身の女性ポップスデュオ・Kiroroのヒット曲。この年は沖縄尚学が初優勝。沖縄勢の悲願だった甲子園優勝を叶えた。優勝の瞬間は、決勝を戦った水戸商(茨城)の応援団も加わってのウェーブがスタンドに巻き起こった。
■2000年
「First Love」宇多田ヒカル
優勝校:東海大相模(神奈川)
宇多田ヒカルが「First Love」を作ったのは15歳のときだという……。この大会から延長戦が15回に短縮された。優勝は智辯和歌山を決勝で下した東海大相模。
■2001年
「TSUNAMI」サザンオールスターズ/ビートルズメドレー
優勝校:常総学院(茨城)
サザンオールスターズとビートルズが入場行進曲で揃い踏み。「21世紀枠」初導入となった大会は、木内幸男監督率いる常総学院が初優勝。仙台育英は決勝戦で惜敗し、優勝旗はまたもや白河の関を超えられなかった。
■2002年
「明日があるさ」坂本九/ウルフルズ/Re:Japan
2001年にウルフルズ、Re:Japanがカバーヒットさせたのが坂本九の「明日があるさ」。ちなみに「前年のヒット曲が入場行進曲」となったのは1962年からで、その年の入場行進曲も坂本九の「上を向いて歩こう」だった。優勝は名門・報徳学園。
■2003年
「大きな古時計」平井堅
優勝校:広陵(広島)
平井堅による異色のスタンダードカバーが「大きな古時計」。大会は西村健太朗(巨人)と白濱裕太(広島)のバッテリーを擁する広陵が12年ぶりのV。決勝で成瀬善久(ヤクルト)、涌井秀章(ロッテ)のいる横浜(神奈川)を決勝で破っての優勝だった。
■2004年
「世界に一つだけの花」SMAP
優勝校:済美(愛媛)
「世界に一つだけの花」の作詞作曲は、1992年の入場行進曲「どんなときも。」の槇原敬之。大会は「ミラクル済美」こと済美が初出場で初優勝。故・上甲正典監督にとっては1988年の宇和島東に続き、2度目のセンバツ初出場初優勝となった。
■2005年
「君こそスターだ」サザンオールスターズ
優勝校:愛工大名電(愛知)
サザンオールスターズが2001年の「TSUNAMI」に続き2度目の入場行進曲に。大会は、前年センバツ準優勝の愛工大名電が雪辱を晴らし、初優勝を飾った。
■2006年
「青春アミーゴ」修二と彰
優勝校:横浜(神奈川)
「青春アミーゴ」はドラマ『野ブタ。をプロデュース』の主題歌。『野ブタ。をプロデュース』のヒロインは、先日電撃引退した堀北真希だった。大会は横浜が8年ぶり3度目のV。公立校・清峰(長崎)が初出場で準優勝と活躍した。
◎2006年から2017年の入場行進曲
■2007年
「宙船」TOKIO
優勝校:常葉学園菊川(静岡)
TOKIOのヒット曲「宙船」は中島みゆきの手によるナンバー。大会は常葉学園菊川が奔放な野球で初優勝を飾った。中田翔(日本ハム)擁する大阪桐蔭(大阪)は準々決勝で常葉学園菊川に惜敗。
■2008年
「蕾」コブクロ
優勝校:沖縄尚学(沖縄)
「蕾」はリリー・フランキーの小説を原作としたドラマ『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』の主題歌。この春は、沖縄尚学が1999年に続いて2度目の優勝。初優勝時のエース・比嘉公也が監督に就任しての快挙達成となった。
■2009年
「キセキ」GReeeeN
優勝校:清峰(長崎)
ドラマ『ROOKIES』の主題歌「キセキ」が入場行進曲に。大会は2006年に初出場で準優勝した清峰がエース・今村猛(広島)を擁して優勝。菊池雄星(西武)の花巻東(岩手)との決勝戦を1対0の投手戦で制した。
■2010年
「My Best Of My Life」Superfly
優勝校:興南(沖縄)
「My Best Of My Life」はドラマ『BOSS』の主題歌。大会は興南が沖縄勢として3度目のセンバツ優勝。この年の興南は春夏連覇。沖縄勢がついに夏の甲子園の頂点に立った。
■2011年
「ありがとう」いきものがかり
優勝校:東海大相模(神奈川)
「ありがとう」は俳優・向井理の出世作となったNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の主題歌。開幕12日前に東日本大震災が起こり、開催が危ぶまれた大会を制したのは東海大相模。被災した東北(宮城)は1回戦最後の試合に配された。
■2012年
「Everyday、カチューシャ」AKB48
優勝校:大阪桐蔭(大阪)
アイドル界の頂点に立ったAKB48が入場行進曲に。大会を制したのは「平成の最強軍団」こと大阪桐蔭。藤浪晋太郎(阪神)と森友哉(西武)のバッテリーを擁する大阪桐蔭はこの年、春夏連覇を達成。
■2013年
「花は咲く」花は咲くプロジェクト
優勝校:浦和学院(埼玉)
「花は咲く」は東日本大震災の復興支援ソング。作詞を手掛けたのは映画監督の岩井俊二。実力校ながら、なかなか勝ちきれなかった浦和学院がついに初優勝。
■2014年
「恋するフォーチュンクッキー」AKB48
優勝校:龍谷大平安(京都)
勢いが止まらないAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」が2年前に続いて2度目の入場行進曲に。大会優勝校は龍谷大平安。「名門復活」を成し遂げた原田英彦監督が優勝決定後に男泣きを見せた。
■2015年
「Let It Go 〜ありのままで〜」 映画『アナと雪の女王』劇中歌
優勝校:敦賀気比(福井)
「Let It Go 〜ありのままで〜」は、「レリゴー」の流行語を生んだディズニー映画『アナと雪の女王』の大ヒット劇中歌。大会は敦賀気比が初優勝。北陸地方に初めての優勝旗をもたらした。
■2016年
「もしも運命の人がいるのなら」西野カナ
優勝校:智辯学園(奈良)
同世代の女性から圧倒的な支持を得ている西野カナの最新ヒット曲。大会は智辯学園が初優勝。高松商(香川)が準優勝したことで「古豪復活」と話題を呼んだ大会でもあった。
さあ、「あのとき」を思い出していただけただろうか。オールドファンのかたは1987年以前の入場行進曲をチェックしてみるのもいいだろう。青春の1曲とともに、青春の1コマが蘇るはずだ。
文=山本貴政