3月29日に今年もプロ野球が開幕した。すでに3週間以上が経過しているが大きく抜け出しているチームはなく、混戦模様となっている。
そんななか、昨シーズンのパ・リーグを制した西武は開幕3連敗スタートだったものの、2カード目で3連勝。大きく出遅れることなく、混戦に食らいついている。浅村栄斗(楽天)が抜けたことで心配されたが、森友哉が絶好調だ。
また、昨シーズンのMVPである山川穂高も打率こそ低いものの、すでに6本塁打。一発は順調に積み重ねており、大きな心配はいらなさそうだ。また、本塁打王6度を誇る中村剛也が下位打線に名を連ねており、強力打線は今年も健在となっている。
さて、4番に座る山川、そして下位打線で目を光らせる中村の2人には共通点がある。プロ野球選手としては、ぽっちゃりしている。いや、かなりぽっちゃりしていると言っていい。こういった、ぽっちゃり体型の選手が話題を集めるようになったのはここ最近のこと。
偶然なのか、必然なのか、この頃、このぽっちゃり体型選手が気になってしょうがないという本誌『野球太郎』持木秀仁編集長にぽっちゃりの定義と魅力、それに当てはまる選手を聞いた!
──ここ最近、ぽっちゃり体型の選手に注目していると聞きました。ただ、ぽっちゃりといっても基準は人それぞれです。持木さんの考える「ぽっちゃり」とはどういった選手なのでしょうか。
持木編集長(以下、持木):ただ単純に体重が重い選手というわけではなく、愛くるしいキャラクターがあることですね。中田翔(日本ハム)なんかは107キロありますけど、ぽちゃりというより「ゴツい」ですよね。
──たしかにそうですね。体重ランキングを見ると外国人が上位に並びますが、そこは違うと?
持木:外国人選手はぽっちゃりというより、ただただ「デカい」といった感じなので、ちょっと違います。昔、ダイエーにいたトラックスラーなんかはぽっちゃりでしたけど。今だとデスパイネ(ソフトバンク)かな。お腹が出てる(笑)。
──トラックスラーは懐かしい名前ですね。愛くるしさのほかには何か特徴はありますか?
持木:コミカルな要素でしょうか。つまり、トレーニングで作られた体ではなく、「生まれたときから太っていたのでは?」と思わせる体型(笑)。
──そういった天性の要素は大事な気がします(笑)。
持木:なんだか漫画チックで、守備も一生懸命だけど、どこかおもしろく見えてしまう。そんな選手の走りは「ドカベン」こと香川伸行(元南海ほか)でしょうね。香川は注目されていましたけど、そのあとぽっちゃりは下火になって、少し前に中村剛也(西武)が出てきました。
──たしかに香川のあとに、目立った選手はいなかったかもしれません。
持木:今、JR東海で頑張ってる中田亮二(元中日)とかもいたんですけどね。ちょっとプロでは長打力が足りなくて苦労しました。中田はぽっちゃり系の残念な例というか……。
──残念な例(笑)。
持木:松山竜平(広島)なんかも、もう少し長打力があれば、と思わせる存在です。松山はボーダーラインといったところでしょうか。
──見ていて楽しくなるキャラクター性は大事ですよね。
持木:はい。デブでいじけた感じはだめです(笑)。となると筒香嘉智(DeNA)みたいなストイックさもちょっと違う。近くにいると、ついつい、ペチペチ叩きたくなるような存在が理想です。お相撲さんじゃないですけど(笑)。
──そう考えると中村は偉大ですね。
持木:中村が成績を残したぽっちゃりのパイオニアですね。それに山川が続いて、去年は井上晴哉(ロッテ)も出てきました。今は山川が最先端にいる選手です。
──最先端(笑)。その他に素質がありそうな選手はいますか?
持木:若手では岩見雅紀(楽天)には注目しています。
──岩見はぽっちゃり型としても、そしてスラッガーとしても、両方ポテンシャルがありそうです。
持木:とはいえ、実績がまだないので、これから結果を残すことが必要ですね。それとキャラ立ちも必要。あと、石原彪も面白い存在です。こう見ると楽天に素質を持った選手多いですね。
──たしかにそうですね。
持木:でも不安は石井一久GM……。
──というのは?
持木:2年目の岩見がいるのに、去年のドラフトで同じ外野手で真反対のタイプの辰己涼介を1位で取りましたよね? 岩見、そして石原も前の梨田昌孝監督時代にドラフトで指名した選手です。もしかしたら、チーム方針が変わっていく可能性があるかもしれません。ぽっちゃりを育む空気感がなくならなければいいのですが……。
持木編集長はどこか愛くるしさを感じさせてくれ、コミカルな印象を与えてくれるのが、ぽっちゃり系にとっての大事な要素だという。もちろん、成績が伴わなければならないことは言うまでもない。そう考えると、ここ最近では中村がパイオニアとして道を開き、山川や井上がその次の世代を担うといった認識で間違いない。その次の世代として期待がかかるのは岩見、そして石原となる。
ぽっちゃり系の選手は野手に多い印象だが、もちろん投手にもいる。ここからは持木編集長の目にかなったぽっちゃり系投手を聞いていこう。
──中村や山川、井上はスラッガータイプの野手ですが、投手ではどうでしょう?
持木:まずぽっちゃり系といえばリリーフに多い印象ですが、先発投手とは対極の位置にいますからね。比較対象があった方が、キャラが際立っていいですよね。
──比較対象とは?
持木:たとえば藤浪晋太郎(阪神)と澤田圭佑(オリックス)。2人は大阪桐蔭高校の同級生ですが、長身でスマートな藤浪とぽっちゃりの澤田で比較できるじゃないですか。澤田はいいですよね。お腹の上に乗せて投げる江夏(豊、元阪神ほか)感が出てくるとさらにいい(笑)。
──なるほど(笑)。
持木:あと、先発同士ですが高校時代に広島大会の決勝戦で投げあった田口麗斗(巨人)と山岡泰輔(オリックス)も。田口がもうちょっと太るとコントラストがはっきりつきますよね。田口はぽっちゃりなのに器用。技巧派という点はポイントが高いですね。ヤンキースなどで活躍したデビッド・ウェルズ(※)は技巧派でしたしね。
──技巧派ではないですが、鈴木博志(中日)なんてどうでしょう?
持木:体重が120キロ位になればキャラが立ちますね(笑)。チームメートの小笠原慎之介(中日)もなかなかですが、パフォーマンスとの兼ね合い次第でしょう。
──ところで、なぜぽっちゃり系の選手が増えてきたんでしょうか?
持木:イチロー(元マリナーズほか)の活躍をきっかけに、俊足巧打の右投左打の選手がたくさん出てきました。しかし、プロの世界ではそういうタイプが飽和して、落ち着いてきた感があります。だからこそ、その対極にいるぽっちゃり系が再び日の目を見るようになったのかなと。
──ぽっちゃりの復権ですね(笑)。
持木:あと、これは個人的な意見ですが、イチローの素晴らしさは言うまでもないなか、でもグラウンドにいる選手全員がイチローみたいだったらちょっと息苦しいですよね(笑)。グラウンドを見るとイチロータイプもいるけど、めちゃくちゃ太っていたり、小さな選手もいたら楽しいなあと。
──そう考えると、もう少し増えてくるかもしれないですね。
持木:そうなるといいですよね。それに彼らが活躍することで、他にもいいことがあるんですよ。
──というと?
持木:ぽっちゃり系の選手は試合の終盤になると、代走や守備固めでほかの選手との交代が必要になってきます。つまり控え選手にとっても活躍の場が広がるということなんです。
──たしかに緊迫した場面では、代走を出されたり、守備固めの選手と交代する機会は多くなりそうです。
持木:さらに言うと、ぽっちゃり系の活躍はアマチュアの選手たちにとっての希望にもなるんですよ。ぽっちゃり系がたくさん現れて「プロ野球でも活躍できる!」となれば、プロを目指すアマ球界のぽっちゃり系選手が増えてきますからね。
──プロ野球の世界だけでなく、次の世代にもつなぐことも大事ですね。
持木:そうです。次の世代につなげるためにも、中村から山川へつないだように、ここから岩見にバトンを受け取ってでほしいです。そうすることで、今のアマチュア世代のぽっちゃり系選手たちの希望になりますから。エンターテインメントとしてぽっちゃり系は廃れないでほしいです。
ぽっちゃり系選手を通して、次世代、それもアマチュア球界のことまで考えているのは『野球太郎』本誌の編集長らしい。プロ野球の世界で活躍しているモデルがあれば、当然アマチュア球界でそれを目指す選手は生まれてくる。この発想はドラフトを中心としたアマチュアを長らく取材してきたからこその視点だろう。
今シーズン、山川や井上は昨シーズン同様に活躍できるのだろうか。また、岩見は希望の星となるべく頭角を表してくのだろうか。楽天・石井GMの方針はどうなるのか。
ぽっちゃり系に注目するだけで野球の見方が広がった気がする。読者の皆さんもぽっちゃり系に注目してみてはどうだろうか。新たな発見があるかもしれない。
(※)メジャーリーグが誇ったウェルズは通算239勝マークしている左腕。完全試合も達成している。
取材・文=勝田聡(かつた・さとし)