今季、注目したい選手のひとりがメヒア(広島)だ。2016年にドミニカカープアカデミーからやってきた3年目の25歳。昨季は同期入団のバティスタが1軍でプチブレイクを果たしたが、今季はオープン戦からバティスタの故障の間に結果を残し、開幕1軍メンバー入りを決めた。チームでは新井貴浩も左ふくらはぎの故障で離脱しており、大チャンスが巡ってきた形だ。
そのメヒアの好きな言葉のひとつが「ヤキニク」だ。外国人が思い浮かべる日本食といえば、「スシ、テンプラ、スキヤキ」といったところだが、実は焼肉は「コリアン・バーベキュー」という単語が有名で「ヤキニク」は後塵を拝している。
しかし、来日する助っ人選手のほとんどは早い段階で日本式の焼肉に触れることになる。プロ野球選手の焼肉好きは言わずと知れたこと。誰に連れて行ってもらったのか、キャンプが終わる頃には「ヤキニク」がボキャブラリーに入っている。
偏食家で「ジャンクフードしか食べない」と言われていたクルーン(元巨人ほか)も焼肉は大好物だったようで、そのボキャブラリーには『叙々苑』も含まれていた。
今年来日した助っ人たちもぜひ「ジャパニーズ・ヤキニク」の伝道師になってもらいたい。
助っ人と日本食といえば、マートンとブラゼルの元阪神コンビの牛丼愛も忘れられない。特にマートンは『吉野家』に通い詰め、「クルーンがマクドナルドに出現」並みの目撃情報がSNSなどに寄せられていた。
「マートン 牛丼」で検索するとサジェストには「駅」「地べた」の候補が出てくる。これは実は移動中の品川駅で待ち時間に座り込んで吉野家のお持ち帰りを食べている姿を目撃されたことによる……。なんという牛丼愛。
ほかにも牛丼に魅せられた助っ人は多いが、なぜか行きつけは吉野家が多い。松屋、すき家、なか卯……、このあたりは喧々諤々の議論になるところだが、個人的には松屋派、すき家派、なか卯派の助っ人がいるのかも気になる。
焼肉や焼き鳥など、シンプルに肉を焼く料理は、異国の地では救いの手にもなり得る。日本でも「海外で食が合わなければ中華街へ行け」と言われているように、食事への対応は根性だけでは成り立たない面もあるが、新助っ人が特に気をつけたいのは偏食だ。
痛ましい記憶を残すのは1966年からサンケイに在籍したルー・ジャクソン。メジャーでの出場実績もある大物で、来日から3年連続20本塁打超えを記録し、チームの主力だった。
しかし、ジャクソンは極度の偏食で野菜嫌い。毎日の食事を焼き鳥で済ませていた。これだけならまだ救いがあったのだが、同時にホームシックや離婚問題を抱えており、ビールも痛飲していたのだ。
焼き鳥にビール。最高の組み合わせであることに間違いはない。ただ、そのような食生活が続いたせいかどうかは定かではないが、ジャクソンは1969年3月26日のオープン戦で倒れ、胃痛を訴えて病院へ直行。手術を受けたが、5月27日に膵臓壊死でこの世を去った。まだ33歳だった。
近年は栄養への知識が深まりつつあるが、異国の地では多くのストレスもあり、食が偏りがちだ。焼肉、焼き鳥、牛丼などガッツリ系の日本食が人気を集めるが、長い活躍のためには節度あるコンディション調整も必要だ。体調万全でジャパニーズドリームをつかんでほしい。
文=落合初春(おちあい・もとはる)