秋季神奈川県大会では、横浜が準々決勝で鎌倉学園に8対15とコールド負け。2季連続の甲子園出場の道が絶たれた。
最近、横浜がコールド負けを喫したのは、2014年の秋季神奈川県大会3回戦で慶應義塾に1対8で敗れて以来のこと。ちなみにこの時は、翌年の夏は準優勝。決勝で東海大相模に敗れたものの、立て直してきた。また、奇しくも慶應義塾も2014年秋、2015年春ともに東海大相模に敗れている。
今秋から来夏にかけての神奈川は東海大相模、横浜、慶應義塾を軸に動くと見られる。選手の自主性を重んじ、粘り強く成長を待つ平田徹監督の元で、今、横浜は新しいスタイルを作り出そうとしている。3年目の夏を迎える平田監督と、万波中正ら逸材揃いの横浜ナインは三つ巴の争いをどうか戦っていくのか。追いかけていきたい。
今夏の甲子園を沸かせた優勝校・花咲徳栄、準優勝校・広陵、ベスト4の東海大菅生、天理。甲子園連続出場を狙う4校は、この秋をどう戦っているのか。
■花咲徳栄
清水達也、綱脇慧のWエース、好打者・西川愛也らの活躍で甲子園初優勝を遂げた花咲徳栄。3年連続の夏出場で「甲子園での闘い方」という経験を積み上げてのVだった。
今秋も順調に勝ち上がり、埼玉県大会の決勝に進出。3年連続秋季埼玉大会優勝の浦和学院を破った市川越とともに、関東大会への出場を決めた。昨夏の甲子園Vで花咲徳栄は全国の強豪の仲間入りを果たしたと見ていい。実力校揃いの関東大会だが、まずはセンバツへの視界は良好だ。
(その後、10月2日に行われた埼玉県大会決勝で市川越に8対2で勝利した)
■広陵
平元銀次郎と中村奨成の大型バッテリーを中心に甲子園準優勝に輝いた広陵。悲願の夏初優勝とはいかなかったが、大技、小技を絡めた攻撃で優勝候補を次々と破る快進撃。名門の底力に感じ入った高校野球ファンも多かったことだろう。
しかし、今秋は広島県大会3回戦で盈進に0対1で惜敗。センバツ出場を逃してしまった。とはいえ、同大会の開幕戦ではライバルの広島新庄を破っている。この試合で好投したのは森悠祐。昨夏の甲子園では140キロ超の重いストレートで沸かせるも、やや力不足を露呈してしまった。最上級生となったこれから、ひと冬を越えての成長に期待したい。
■東海大菅生
今夏の甲子園・準決勝で花咲徳栄と延長11回の熱戦を演じた東海大菅生。3度目の夏の甲子園で初めてベスト4まで勝ち上がった。
この勢いに乗って全国区の常連の仲間入り、といきたいところだったが、この秋は東京都大会1次予選の初戦で二松学舎大付に5対12で敗退。今夏の東東京代表と西東京代表の対決という「東京頂上決戦」が大会最序盤で実現したが、どちらかが早々に消えるとなると、黄金カードながらどこかもったいなくもある……。
■天理
甲子園・準決勝で広陵と壮絶な打撃戦を繰り広げた天理。それまで広陵が戦ってきた中京大中京、秀岳館、聖光学院、仙台育英に比べるとやや力が落ちるかと見られていたが、蓋を開けてみれば名門の力をここぞとばかりに見せてくれた。今秋も順調に奈良県大会の準々決勝を突破。準決勝で高田商を破れば、近畿大会出場となる。
愛知の「私学4強」といえば中京大中京、東邦、愛工大名電、享栄の4校。センバツ出場30回(歴代2位)で優勝4回、夏の甲子園出場28回(歴代5位)で優勝7回の中京大中京を筆頭に、甲子園史に輝かしい記録を残してきた。
その「私学4強」のなかでここのところ元気がないのが享栄。2000年のセンバツ以来、甲子園から遠ざかっている。そこでテコ入れとばかり、驚きの就任劇が行われた。中京大中京を春夏9回甲子園に導いた大藤敏行元監督が、来年の4月より享栄の野球部顧問に就任することが発表されたのだ。
同じ都道府県内のライバル校へ指導者が移籍するのは、ひと昔前では1985年に宮城の名将・竹田利秋監督(現國學院大総監督)が東北の監督を辞任し、仙台育英の監督に就任したケースが思い出される。また、ライバル校という関係ではないが、最近では桐蔭学園を長く率いた土屋恵三郎監督が星槎国際湘南に移り、神奈川の新興勢力に育て上げた。
高校日本代表のヘッドコーチも務めた大藤氏の顧問就任で、享栄はかつての輝きを取り戻せるのか。最近は至学館などの台頭も目立つ愛知で、春夏通算20回目の甲子園出場を目指したい。
この話題に触れないわけにはいかない。選手の故障予防を推し進めるべく来年のセンバツからタイブレーク制の導入が決定。現在の高校野球の「タイブレーク規定」は10回、もしくは13回から無死一、二塁の状態でスタートする。センバツでは13回からタイブレーク制が取り入れられることとなった。
これまで、甲子園では数々の延長戦の名勝負が行われてきた。センバツでは1990年の準決勝が有名だ。第1試合の東海大甲府対近大付が延長13回、第2試合の北陽対新田が延長17回の死闘となり、この1日は「センバツの一番長い日」と呼ばれている。
また、試合時間が押し、カクテル光線に照らされてのナイトゲームは甲子園の「景勝」と言っていいほど親しまれている。
それだけにタイブレーク制の導入に「寂しい」という声が挙がるものの、選手の体を考えれば「致し方ない」という声が大勢のようだ。高校野球は筋書きのないドラマ。そして、甲子園には魔物が住むという。タイブレークの元で、どんなドラマが生まれるのだろうか。まずは見てみたい。
文=山本貴政(やまもと・たかまさ)