昨季は先発や中継ぎとして30試合に登板し、プロ初勝利を挙げるなど4勝をマーク。シーズン終了後には21U日本代表にも選出された。4年目となる今シーズンはキャンプで離脱したものの、4月末までにウエスタンで5連勝の活躍により、3・4月度の月間MVPを受賞。5月8日には黒田博樹の代役として1軍で先発登板し、勝ち星を挙げるなど、期待の若手サウスポーだ。
初めて見たのは2010年4月。戸田が2年生になったばかりの春の九州大会だった。当時の九州勢は2007年夏の佐賀北、2008年春の沖縄尚学、2009年春の清峰、2010年春の興南と4年連続で全国制覇をしていた。その九州大会では、後に甲子園春夏連覇を達成する興南の島袋洋奨(中央大〜現ソフトバンク)を始め、糸満の宮國椋丞(現巨人)、宮崎工の浜田智博(九州産業大〜現中日)らタレントが集結していた。
大会初日、パンフレットを手にした私は、知らない選手はいないか、1年生がメンバーに入っていないかなど、そわそわしながらページをめくっていった。すると、樟南のページで目がとまった。
「2年生でエースの戸田隆矢か……。180センチ67キロ。細いけど、長身の左投手、いったいどんなピッチャーなのだろう」
直感的に興味が沸いた。しかも、当時騒がれ始めていた同じ2年生の吉田奈緒貴(現JR九州)を擁する宮崎商と初戦でぶつかる。同日の同会場では、春の王者・興南も続けて登場する。即座に翌日の観戦会場が決まった。そんなわくわく感のあまり、前夜は仲間との野球談議に花が咲き、ついつい飲み過ぎてしまった。翌朝は二日酔い。頭がボーっとしたまま、バックネット裏最前列に腰掛けた。
しかし、一向に頭が冴えないままで、これから目当ての戸田が投げるというのに、私はトイレに行ってしまった。情けない話だが、ここからの出来事は明確に覚えている。なぜなら、トイレから出てきた瞬間、戸田が先頭打者を切り裂くようなスライダーで空振り三振を奪ったからだ。さらに、2番打者、3番打者と立て続けに空振り三振を奪って、三者連続三振。二日酔いは完全に吹っ飛び、とんでもないものを見てしまった、というなんとも言えない気持ちで支配された。
すでに私の中で戸田のマークが始まっていた。とはいえ、私はサラリーマン兼ライター。しかも、中国地区から九州地区までの広範囲を見ているので、組み合わせや日程次第では、どうしても見たい試合があるのに見られないことも多々ある。そんな中、2010年夏の鹿児島大会初日へ行くチャンスがあった。樟南の試合こそなかったが、どうしても戸田と話してみたかったので、開会式直後に戸田を探して声を掛けた。当時のメモを改めて探してみると、雨でにじんだ走り書きにはこう記されていた。
「追いこんだら三振しか考えていない」(戸田)
話したのはほんの数分間だったが、外見から受けていたおとなしい印象が一新され、内に秘めた強さを感じた。
夏を終えた9月。九州学院グラウンドに報徳学園と樟南が練習試合に来る、という情報が入ってきた。グラウンドには、お目当ての戸田のほか、その年の夏に1年生ながら甲子園を沸かせた報徳学園の田村伊知郎(現立教大)、さらに九州学院には大塚尚仁(現楽天)を始め、萩原英之(現明治大)や溝脇隼人(現中日)などがいた。
豪華な変則ダブルヘッダーが行われたその日は、横から戸田を見たいと思い、三塁側に向かった。同グラウンドの三塁側には、低い位置からマウンドが見えるネットとコンクリート壁の隙間がある。三塁側ということは、左投手の戸田を背中越しに見ることになるが、この覗きこんでいた角度が意外に面白かった。腕を振り切った後も球から目を離さない。球をできるだけ前から放そうとするリリースポイントの意識。低めでも伸びていく球の軌道。新しい戸田隆矢を覗き見ることができ、溢れ出るような魅力の大きさに、さらに期待が膨らんだ。
翌春の鹿児島大会で戸田の投球は見られなかったものの、GWの“鳥栖クロスロード”で成長を確認。完成度が増して、九州全域を見渡してもNo.1左腕だなと感じさせた。しかし、その試合の印象を忘れさせるくらい衝撃的な試合があった。
それは2011年5月21日のNHK旗(春季大会と夏季大会の間に九州の各県で開催される大会のこと)、鹿児島南戦である。当時の鹿児島南には、プロ注目の笛田怜平(現福岡工業大)がおり、鴨池市民球場のネット裏には多くのスカウトが陣取っていた。
1回表から闘志むき出しの笛田は、フルスロットルでいきなり三者連続三振。そんな笛田に対して、戸田は落ち着いた立ち上がりを見せる。タイミングを外して、意図的にゴロを打たせたり、要所は三振を奪ったり、メリハリを利かせた投球を最終回まで続け、被安打5の11奪三振完封。
6月15日現在、広島はセ・リーグ最下位と低迷しているが、前田健太、黒田博樹、クリス・ジョンソン、大瀬良大地、野村祐輔など先発投手陣はリーグ屈指だといえる。そんな中、戸田は中継ぎ待機の試合が多い。それでも、5月30日のオリックス戦、7回2死満塁の場面でマウンドに上り、昨季のパ・リーグ首位打者・糸井嘉男をストレート一本で三振を奪った。このような、中継ぎで一球一球に魂を込める投球は一際光っている。それもいいだろうが、高校生当時に見ていた戸田のゲームメイク能力をプロの試合でも見てみたい。
鯉のぼりの季節は終わったが、苦手な交流戦を五分で終え、逆襲を狙いたい広島。投手陣に疲れが出てくるこれからの時期、戸田の活躍具合によって、鯉の順位がどれだけ昇っていくか、大きく左右するに違いない。ちょっと先取り的に紹介した戸田隆矢の今後の活躍を期待してほしい。
■ライター・プロフィール
アストロ/1973年生まれ、徳島県出身。熊本を根城とし、九州全域はもとより中国地区まで渡り歩き有望選手を探す。大学時代は軟式野球部の監督兼選手として全国準V。