【プロ野球・高校野球部員最多×最少対決】聖光学院高校(福島)vs. 岩出山高校(宮城)
「漫画みたいだな……」
プロ・アマ問わず、野球を見ていると時々、そうつぶやきたくなるときがある。大谷翔平の二刀流挑戦も、40歳を越えてなおメジャーで活躍するイチローの生き様も、50歳を越えてプロ野球選手であり続ける山本昌の存在も、野球を詳しく知らない人に説明すれば「それ、漫画でしょ」と片付けられかねない。
9人の部員を揃えるのもやっとの無名公立校が、絶対エースの活躍で甲子園を目指す……2013年の宮城県立岩出山高校野球部も、まさにそんな「漫画のような」状況だった。
11人で目指した甲子園
2013年夏。岩出山は2つの意味で注目を集めていた。一つは、部員がたった11人しかいなかったこと。そして、もう一つの理由は、そんな野球部に全国レベルの絶対エースがいたからだ。
その絶対エースの名は今野龍太。最速146キロのストレートを武器にチームを31年ぶりに春季宮城県大会出場に導き、夏の宮城大会の初戦ではノーヒットノーランまで達成してしまう。
今野の投球の素晴らしさもさることながら、味方守備の支えもなければノーヒットノーランの達成は不可能だ。そして、人数が少なくても練習できるのが「守備」の特徴でもある。岩出山ナインは1日1時間半以上のノックで猛特訓を積み、守備力を向上。ノーヒットノーランの試合でも好守で今野をもり立てた。結果的には、その次の試合で岩出山は敗退。11人による甲子園出場という夢は叶わなかったが、全国の公立校に勇気を与えたのではないだろうか。
そして、一人別格の才能でチームを牽引した今野龍太は、2013年ドラフトの9巡目で地元・宮城県を本拠地とする楽天から指名を受けた。背番号は99。その年のドラフト選手の中では最後の指名だった。
当初は肉体改造で終わると見られていた1年目に1軍デビューも果たし、期待の若手投手として注目される今野龍太。その右腕には、強豪校以外の(そしてそれは、大多数の、という意味でもある)高校球児たちの夢の重みも乗っていることを忘れず、右肩上がりの成長曲線を描いてほしい。
160人で挑んだ甲子園
試合形式の練習もままならない少人数の野球部も大変だが、部員数100人を超える大所帯の野球部も、マネジメントという側面でみればこれまた大変だ。
年々、ジャンルの細分化が進む野球漫画においても、『ダイヤのA』、『強豪野球部新入部員のありがちな日常』など、この手の話題を取り上げる作品が増えてきている。
現実世界において、毎年「最多部員数」を誇る野球部といえば、福島県の聖光学院だ。近年は強豪校でも、生徒の指導・管理がしきれない、という理由で1学年の部員数に制限を設ける学校は珍しくない。ところが、聖光学院はといえば、2014年夏の大会の部員数が163名、2013年大会も166人と、甲子園出場校の中では群を抜いて多かった。
部員数が増えてしまう最大の理由は、県外からの野球留学だ。といっても聖光学院の場合は特別なスカウトをしているわけではなく、基本的には自主的に受験して入部してきた生徒たちばかり。昨年時点で夏の甲子園に8年連続出場を果たした斎藤智也監督の下で野球がしたい、と集まってくるのだ。
甲子園常連校となった近年では、本大会においてもベスト8を狙える安定した力をつけてきた聖光学院。当然、プロに進む選手も増えている。
上述した今野龍太と同じ2013年ドラフトでは、園部聡がオリックスの4位指名を受け、プロの門を叩いた。県外出身選手が多い聖光学院において、福島県いわき市出身の園部は紛れもない地元スター。高校日本代表にも選出された実力で、早く1軍デビューを……と誰もが期待していた矢先、信じられない事態が起きる。
1年目のシーズンが終わってすぐに戦力外通告を受けてしまったのだ。高校時代から痛めていた右ヒジを手術した結果、選手枠の問題もあって「育成枠」にするための形式上の措置とはいえども、「戦力外」は重い。大所帯の野球部でも1年時から試合に出続けてきた園部にとって、初めての挫折といってもいいだろう。だからこそ、かつて試合に出られなかったチームメイトたちの姿を思い出し、奮起してもらいたい。
無名の公立校からのし上がってエースを目指す今野。名門校出身にもかかわらず、入団早々に「戦力外」という大きな挫折を味わった園部。同い年の2人がここからどんなサクセスストーリーを歩むのか? その生き様を、かつての仲間たちも見守っているに違いない。
■ライター・プロフィール
オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」、「AllAbout News Dig」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』(新紀元社)では構成を、『漫画・うんちくプロ野球』(メディアファクトリー新書)では監修とコラム執筆を担当している。近著に『福島のおきて』(泰文堂)。Twitterアカウントは@oguman1977(https://twitter.com/oguman1977)
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