ドミンゴ・マルティネス(元巨人ほか)やマイク・ザガースキー(DeNA)など、日本では巨漢選手が人気を博すことが多いが、海の向こうでもその傾向は一緒のようだ。コローンはその名前の“ノドごし”通り、丸っこいデブである。
現在、180センチ130キロ。年齢を重ねるごとに体重が増し、今では野球選手であることが奇跡と思えるほどの丸っこさ。こうなるとすべてのプレーがコミカルに見え、コローンの笑顔に癒されてしまう。ゆるキャラ的な可愛さに全米が虜になっている。
それでも実力は本物。昨季も31試合に先発して14勝13敗、防御率4.16。立派なローテーション投手で今季の前半戦も17試合に先発し、7勝4敗、防御率3.28。登板はなかったがオールスターゲームにも招聘されている。
2005年には21勝を挙げ、最多勝&サイヤング賞を受賞するなど、なんとここまで225勝。メジャーデビューから昨年までの19年で12回の2ケタ勝利をマークしている。ただのデブではない、レジェンドなのだ。
投球もさることながら、打席でもコローンは大人気だ。バットを振るとコミカルにヘルメットが飛ぶ。たまにヒットを放つと、ヘトヘトになりながらパタパタと走り、観客やチームメートは大盛り上がり。実況や解説はその様子を見て、ヒィヒィ笑うというのが定番だった。
しかし、今年、コローンはとんでもないことをなし遂げてしまう。5月7日のパドレス戦、キャリア226打席目にして、なんと初本塁打を放ったのだ。
42歳11カ月でのメジャー初本塁打は史上最年長記録。巨体を揺らしてダイヤモンドを一周すると、敵地・サンディエゴのパドレスファンも大喜び。メッツファンもパドレスファンも立ち上がって叫び出した。さらに面白いのは球場内が満場一致の大熱狂ではなく、UFOでも現れたかのような“騒然”に陥ったことだ。
まさにカルト……!
さらにはMLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏もコローン教徒のようだ。2015年、ナ・リーグのDH制導入の是非について問われた際にこう語っている。
「DH制にするということは、バートロ・コローンが打席で見せてくれるエンターテイメントを奪うということだ」
そんなコローンだが、大きなスランプもあった。最多勝を獲得した2005年の翌年からケガなどが重なり、2011年までの6年間、2ケタ勝利から遠ざかったのだ。
だが、2012年のコローンは一味違った。アスレチックスで開幕ローテーションに入り、東京ドームで開催されたマリナーズとの開幕シリーズでも2戦目の勝利投手に。捕手の送球ように小さなテークバックからストレートやツーシームを四隅に投げ込む本来の投球を取り戻したどころか、4月には38球連続ボール球なしというカルト的投球を披露。1988年にMLBが記録し始めてからの最高記録だった。
素晴らしいコントロールに加え、横に大きく曲がるスライダーなどの変化球も冴え渡り、久々の10勝に到達。ニックネームである“ビッグ・セクシー”に相応しい投球を見せ、39歳の復活劇を誰もが喜んでいた。
しかし、8月22日、ドーピングがバレた。普段はドーピング問題に対して批判に終始するファンもこのときばかりはずっこけた。
コローンは早々に過ちを認めて謝罪。これでキャリアの終わりかと囁かれたが、なんと翌2013年、今度は薬抜きで18勝6敗、防御率2.65の好成績。40歳&出場停止明けで目を見張る成績を残したのだった……!
今もコローンは老獪な投球を続けている。彼の投球や打席を見れば、野球の持つ最大限のエンターテイメント性が脳内に溶け込み、たちまちコローン教徒になってしまう。なんとも不思議な選手である。
文=落合初春(おちあい・もとはる)