5月16日現在、広島捕手陣の出場試合数は、以下のようになっている。
( )内はスタメン出場数。
<出場試合数>
石原慶幸24試合(23試)
會澤翼 22試合(17試合)
磯村嘉孝 5試合(1試合)
現時点で石原と會澤が、ほぼ半数ずつを分け合う起用だ。本来ならば、今年で37歳を迎えるベテランよりも、まだ28歳と若く、捕手ながら打撃がウリである會澤を固定したいのは当然だ。
しかし、現状で會澤を固定できないのはなぜだろう? 恐らくそこには、石原との間にある守備力の差があるからだと考えられる。
昨シーズン、リーグワーストの捕逸8個を記録した會澤。ファンのイメージのなかで、パスボールは會澤の代名詞的になりつつあるのは否めない。
今シーズンも石原の0個に対し、22試合で2個の捕逸はリーグ3位。1位の小林誠司(巨人)、戸柱恭孝(DeNa)がそれぞれ38試合で3個という事を考えると、會澤の方がハイペースでパスボールを犯している。これは心証が悪い、と言わざるをえない。
そんな會澤のアピールポイントは、昨季盗塁阻止率.405でリーグトップに立った鉄砲肩。しかし、今季は以下のようになっている。
<盗塁阻止率>
石原慶幸.333(リーグ2位)
會澤翼 .267(リーグ5位)
一昨年のシーズン、肩を負傷したことで「盗塁フリーパス」とまでいわれた石原だが、ケガの癒えた昨季からは“復肩”。リーグ3位の盗塁阻止率.315を記録している。肩でも石原が高水準を出すと、守備の面で會澤の立場は苦しくなってしまう。
そんななか、この論争で最も熱くなるのが、リードの部分だ。捕手は経験がものをいうポジション。投手をリードする引き出しは経験の元に生まれるのは間違いないだろう。
では、実際の数字ではどうなのか? まずはスタメンマスク時の勝敗を調べた。
<スタメンマスク時の勝敗>
石原慶幸 23試合14勝9敗
會澤翼 17試合7勝9敗1分
勝てる投手、黒田博樹、クリス・ジョンソン等と組む機会の多い石原。そのためか勝ち星が先行しているのだろうか? では先発投手別の防御率を見てみよう。
<石原が受けた先発投手陣成績>
・黒田博樹 7試合4勝1敗 防御率2.93
・岡田明丈 1試合0勝0敗 防御率3.00
・野村祐輔 3試合2勝1敗 防御率1.66
・横山弘樹 4試合2勝1敗 防御率3.57
・ジョンソン 8試合4勝3敗 防御率2.35
合計防御率2.63
<會澤が受けた先発投手防御率>
・福井優也 6試合1勝1敗 防御率5.21
・九里亜蓮 2試合0勝1敗 防御率3.46
・岡田明丈 2試合0勝1敗 防御率7.71
・野村祐輔 4試合2勝1敗 防御率3.70
・中村恭平 1試合0勝0敗 防御率3.52
・横山弘樹 1試合0勝1敗 防御率37.80
・戸田隆也 1試合0勝0敗 防御率4.05
合計防御率5.13
新人の横山弘樹、岡田明丈との対比を見ると、石原が新人を巧くリードしていることがよくわかる数字だ。ジョンソン、黒田が勝てるのも、石原のリードがあってこそのなのかもしれない。その点を踏まえると、現時点で捕手としての実力は石原の方が数段上に思える。
捕手としては、石原に軍配が上がった形となるが、捕手とて打線の一端を担う野手。その打撃はいかなるものか? 5月16日現在の打撃成績は以下の通りだ。
<打撃成績>
石原慶幸 打率.151 0本塁打 4打点
會澤翼 打率.250 2本塁打 9打点
投手顔負けの石原の低打率が目立つ。打撃型捕手として評価されている會澤も、この数字ではイマイチ物足りないように思えるが、セ・リーグの他球団捕手を見渡しても、打率.250を超える選手はほとんどいない。さらに2本の本塁打を放っている点を踏まえれば、會澤の打撃が捕手の中では極めて高いことがわかる。
本塁打はおろか、長打を1本しか記録してない石原。打撃においては、石原と會澤の間には、打率以上の大きな差があると言えるだろう。
数字上でも、2人の捕手には面白いくらいに対照的な結果が出ている。守備をとるなら石原。打撃をとるなら會澤。他球団ファンからみれば贅沢な悩みの中、どちらを正捕手に据えるのか? この不毛な論争はまだまだ続きそうだ。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)