5月20日、茨城県で関東の猛者が集結する春季関東大会が開幕した。
初日は神奈川勢(横浜、東海大相模)と群馬勢(前橋育英、健大高崎)が躍動。横浜は土浦湖北(茨城)に10対0(7回コールド)、東海大相模は千葉敬愛(千葉)に14対2(5回コールド)、健大高崎は石岡一(茨城)に7対0(8回コールド)と、4試合中3試合がコールド決着となった。
一方、前橋育英は駿台甲府(山梨)と戦い、両チームともゼロ行進のまま延長戦に突入。タイプレークの末、前橋育英が1対0サヨナラ勝ちを収めた。
(横浜は21日に行われた2回戦で埼玉・浦和学院に0対2で惜敗、健大高崎は山梨・山梨学院を4対3で振り切った)
春季関東大会の2日目(5月21日)では、清宮幸太郎(早稲田実、3年)が出陣。
当初、東京1位チームの初戦は収容人数2万人の水戸市民球場で行われるはずだったが、「清宮フィーバー」を考慮して、2万5000人を収容できるひたちなか市民球場へ変更された。
早稲田実と花咲徳栄(埼玉)の好試合は延長戦に突入。早稲田実は10回表に2点を奪われるも10回裏に3点を挙げ、10対9で劇的な逆転勝ち。清宮も94号本塁打を放った。
この一戦のスタンドの様子を見ると、試合開始前には1万3000人収容の内野スタンドは満席、外野芝生席もほぼ埋まっていた。収容人数の多いひたちなか市民球場を変更して正解だった。期待に応え続ける男・清宮の人気は夏に向けさらに高まっていくだろう。
清宮といえば、RKK招待高校野球大会・秀岳館戦で起こった「2番打者敬遠からの3番・清宮勝負」の敬遠騒動も記憶に新しい。
この試合はRKK(熊本放送)でライブ配信されたのだが、なんと同局史上最多の2万8000回の視聴数を記録したという。
ちなみにこれまでの1日最多視聴数は、昨年放送されたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の関連映像で1万3000回。人気ドラマにダブルスコアをつけて、清宮の圧勝となった。
「前打者敬遠」という新たな伝説の裏で、怪物は密かに史上最多記録を作っていたのだ。
関東大会序盤で注目を集めたのは、コンゴ人の父を持つ万波中正(横浜、2年)。
先述した土浦湖北戦では「5番・右翼」で出場し4打数2安打と活躍。7回裏からはマウンドに上がり、自己最速を更新する145キロをマーク。一冬越えての成長ぶりを見せつけた。
現在の主なポジションは外野なので、投手起用はオプションのようだが、「二刀流」としてプレーの幅と視野を広げるのは、経験を積む上でいいことだろう。また、高校野球ファンにとっても逸材の投打に渡る活躍を堪能する楽しみが増えた。
春季新潟県大会決勝は、日本文理と中越という甲子園常連校による決戦に。
ライバルの意地の張り合いになるかと見られた試合は、フタを開けてみると、日本文理打線が16安打と爆発。14対1の大差で、昨秋に続く2季連続優勝を果たした。
夏の甲子園・新潟代表最右翼の日本文理だが、同校を全国屈指の強豪校に育て上げた名将・大井道夫監督は今年の夏限りでの勇退が発表されている。
「新潟から全国優勝」を夢見た大井監督の甲子園最高成績は2009年夏の準優勝。鍛え上げた教え子とともに最後の夏に挑む今年、新潟球界に最高の置き土産を残せるか。大井監督と日本文理ナインの戦いに注目したい。
智辯学園と奈良大付がぶつかった春季奈良県大会の決勝は、智辯学園の劇的なサヨナラ勝利で幕を下ろした。
先制したのは奈良大付。初回に6点を奪って主導権を握ると、7回まで智辯学園打線を零封。
ワンサイドゲームで大勢は決したと思われたが、ここから智辯学園が意地を見せる。8回に4番・太田英毅(3年)の3ランホームランなどで追い上げると、4対6で迎えた9回には、またもや太田が3ランホームランを叩き込み7対6と大逆転。
太田が「これぞ4番」という2振りでゲームをひっくり返した。
智辯学園は奈良の高校野球史に残る逆転劇で、2年連続13度目の春季奈良県県大会優勝を飾った。
「センバツ王者」「春の大阪王者」として近畿大会へ臨む大阪桐蔭。春季大阪府大会では、夏に向けて楽しみな2年生投手が2人台頭した。
1人は柿木蓮(2年)。中学時代にボーイズリーグ日本代表に選ばれた本格派右腕は、140キロを超えるストレートを武器に、準々決勝の上宮戦では13奪三振をマークした。
もう1人は左腕の横山凱(2年)。準決勝の東海大仰星戦で7回2失点と好投。5回戦でセンバツ準優勝の履正社を9対8で破った東海大仰星打線を抑えてみせた。しかし、試合後は「やっぱり力不足」と反省の弁ばかりだったという。
2度目の甲子園春夏連覇を狙う大阪桐蔭は育成も抜かりなし。盤石の王者には一分のスキもなさそうだ。
各地の春季大会を見渡すと、万波(横浜)、大阪桐蔭の2人の2年生投手など、下級生世代のスター候補も順調に芽を出してきた。
今年はもちろん、全国高校野球選手権100周年の来年まで盛り上がりが続くの必至。願わくば、ケガなく成長してほしいものだ。
筆者は30代半ば。選手の活躍度合いもさることながら、徐々に「無事にプレーしてほしい」という親目線に近い見方もするようになってきた。年齢によって高校野球の見方も変わっていくのかもしれない。
文=森田真悟(もりた・しんご)