メジャーリーグでもなかなかの際どい判定を連発し、“ボーク・ボブ・デービッドソン”“ボーキング・ボブ”と呼ばれるほど、ボークを頻繁に取る目立ちたがり屋さんだったが、やはり2006WBCでの誤審は常軌を逸していた。
第2ラウンド1組、日本対アメリカの8回表同点の場面、1死満塁で岩村明憲(ヤクルト)がレフトフライを放ち、三塁走者の西岡剛(ロッテ)がホームイン。日本が虎の子の1点を手に入れたかに見えた。
しかし、アメリカベンチは西岡の離塁が早かったとアピール。カバーに入っていた二塁塁審が1度はタッチアップを認めたものの、ここで主審・ボブが「アウト」の宣告を下した。
王貞治監督らも猛抗議したものの、判定は覆らなかった。日本は試合を落とした上、ボブは試合後にも「判定は間違っていない」「日本人は野球を知らない」などと強弁を繰り返し、日本中を激怒させた。
ワールドシリーズ初のトリプルプレーを誤審で見逃したり、ホームランを座ってキャッチした観客を「フェンスより前に乗り出した」として退場処分にして裁判沙汰になったり、アメリカでは悪名高かったボブの日本デビューの瞬間だった。
結局、日本は1勝2敗で第2ラウンドを終え、残るアメリカ対メキシコでメキシコが勝利すれば、かろうじて決勝トーナメント進出の可能性が残る状況だった。
日本国中がメキシコの勝利を祈っていたが、第2ラウンド敗退確定のメキシコはレジャーモードに突入。試合前日にはチームでディズニーランドに遊びにいくなど、アメリカ戦には消化試合の気配がプンプンと漂っていた。
しかし、そんなメキシコに火を点けてくれたのも一塁塁審のボブだった。まず、2回表のアメリカの攻撃で完全にアウトのファインプレーにセーフの判定を下すと、3回裏にはメキシコの選手が放ったポール直撃のホームランを「フェンス直撃」と大誤審。
メキシコベンチはボールにこびりついたポールの黄色い塗料を見せアピールしたが、それでも誤審を認めず、メキシコ代表は大激怒。「アメリカだけは決勝に行かせない」と全力を注ぎ、2対1でアメリカを下して日本の決勝行きをアシストするに至った。
メキシコの勝利は、ボブの判定にやきもきしていた世界中の野球ファンの溜飲が下がる歴史的な一戦になった。
世界にその手腕を知らしめたボブはその後もメジャーとマイナーを行き来し、年1回のペースで事件を連発した。
日本人のみならず方々にとってとんでもない“物議しか醸さない審判”だったボブだが、「結果オーライ」の観点からいうと、第1回の盛り上がりは“ボブさまさま”でもある。
近年のWBCはやや尻下がりの印象も受けるが、いっそのことボブを復帰させてはどうだろうか? “アメリカ・ファースト”の時代、盛り上がること間違いなしかも!?
文=落合初春(おちあい・もとはる)