まず、投手陣からMVP候補を見てみたい。
野村祐輔、ジョンソン。黒田博樹の先発3本柱がそろって2ケタ勝利。そのなかでも野村が最多勝、ジョンソンが沢村賞と甲乙つけ難いハイレベルな成績を残した。普通に考えれば、両投手のどちらかがMVPに輝く可能性は非常に高い。
しかし、筆者はセットアッパーのジャクソンをMVPに選びたい。ジャクソンはリーグ2位の67試合に登板し、防御率1.71。この快投がもたらした優勝への貢献度は計り知れない。
しかし、この好成績だけが選出理由ではない。人気を博した「ジャクソンスマイル」こそがMVPに推す本当の理由なのだ。登板後に見せるあの笑顔は勝利の証。その笑顔に癒され、明日への活力を見いだしたファンはどれほどいたことだろう?
チームだけでなく、ファンの心にも貢献したジャクソンこそ投手のMVPに相応しいと、思えてならない。
今シーズンの広島は投打において高い数字を記録。いろいろなカテゴリーでリーグ1位を記録した。しかし、数値化しづらい、守備力の充実こそが強さの要因でもあった。
捕手・石原慶幸、二塁手・菊池涼介、遊撃手・田中広輔、中堅手・丸佳浩からなるセンターラインは、12球団屈指の守備力を誇る。
その盤石なセンターラインにおいて、菊池の守備力はもはや異次元の領域にある。守備範囲、捕球、送球すべてにおいて高水準。菊池がいるだけでどれだけ失点を防げたのか? 数字には表れないが、その貢献度は計り知れない。打撃でも大きく貢献した菊池だが、敢えてその守備部門のMVPに選出したい。
打撃部門では100打点を挙げた新井貴浩、大ブレイクした鈴木誠也などが実際のMVP候補として挙げられる。その中で敢えてMVPとして推したい選手がいる。それは天谷宗一郎だ。
天谷の今シーズの成績は55試合に出場して打率.175、1本塁打、8打点……。
不本意と言わざる得ない成績に終わった天谷がなぜMVPなのか? それには理由がある。
今シーズン、89勝を挙げた広島。そのうち45勝は逆転勝ちだ。今シーズンの広島の強さを象徴するのが逆転勝ちの多さだが、89勝に及ぶ1勝目をもたらしたのは天谷のバットから生まれた逆転タイムリーだったのだ。
3月26日の開幕2戦目、6回に放った天谷の逆転タイムリーこそ、今年の広島快進撃の幕開けだった。扉をこじ開けた天谷無くしては今年の優勝はあり得なかった!?
そういった理由から、ちょっと無理はあるが筆者は天谷を個人的打撃部門MVPに選びたい。ちなみに今シーズン、広島が決めた9度のサヨナラ勝ちも12球団最多だが、最初のサヨナラタイムリーも天谷が放っている。
この勝利から勢いが出てきたのも事実。そういう意味では天谷がMVPでもおかしくない!?
さすがに天谷が実際のMVPに選ばれることはないだろう。本稿に名前が出てきた誰かがMVPに輝くことは間違いないだろう。
それぞれがハイレベルな数字を出しているだけに、逆に決め手に欠くMVPレース。今シーズン最高栄誉に輝くのはどの選手か? すでにカープロスを発症している広島ファンの皆さま、まだ「MVPは誰か?」というお楽しみは残っています!
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)