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欲しいのは五郎丸ではなかった! ラグビー界の鉄人、大野均をジャイアンツのキャチャーに

「いやいやいやいや。さすがに今年は『五郎丸』でしょ!」

 <「トリプルスリー」が流行語大賞!> そのニュースを聞いて、ラグビー界に申し訳なく思った野球ファンは多いはずだ。1年で最も活躍したプロスポーツ選手に贈られる「日本プロスポーツ大賞」を受賞するなど、2015年のスポーツシーンで燦然と輝いたラグビー日本代表。その象徴的な存在だったのがご存じ、五郎丸歩だ。


 W杯以降はテレビを始めメディアに引っ張りだこ。1万6000円のディナーショーが即完売し、練習場まで通い詰める「五郎丸女子」が話題になるなど、その人気はしばらく衰えそうにない。

 野球界もその人気にあやかるべく、日本シリーズで始球式に起用したり、ファン感謝デーでどの球団も五郎丸仮装を取り入れたりと、トリプルスリーよりも五郎丸フィーバーが顕著だった。

「各界のアスリートが野球界に挑戦したら」。そんな“if”を楽しむ『プロ野球界にコイツが欲しい!』でも五郎丸歩を……といきたいところだが、そうは問屋が卸さない。身体能力はもちろん魅力的だが、始球式での投球フォームを見ればわかる通り、野球的な動きへの応用イメージができないからだ。

 五郎丸は難しい。が、ラグビー日本代表でひとりだけ、野球に挑戦してもらいたい選手がいる。いや、「野球界に戻ってきて欲しい」という表現が正しい。その人物は、トップリーグ・東芝ブレイブルーパスのロック、大野均だ。


ラグビー界に奪われた逸材


 1978年5月6日生まれ、福島県郡山市出身の大野均は現在37歳。W杯ではサモア戦に先発し、37歳150日の日本代表最年長出場記録と歴代最多代表キャップ数(96試合)を更新。まさに、ラグビー界が誇る「鉄人」選手だ。

 来年2月開幕のラグビー世界最高峰リーグ・スーパーラグビーに参戦する日本チーム「サンウルブズ」のメンバーにも選出されるなど、衰え知らずの鉄人・大野。だが、ラグビーを始めたのは大学から。しかも東北リーグ2部所属で大学卒業時も無名選手だった。そこから、社会人ラグビーの名門・東芝に入社し、日本代表にまで登りつめるという「シンデレラボーイ」でもあるのだ。

 そんな鉄人兼シンデレラボーイが高校まで熱中していたもの、それが野球だった。高校時代は福島県立清陵情報高校野球部に所属。2年春にはセンバツ甲子園にも出場(※大野本人はスタンドでの応援組)した強豪校で、外野手兼控え捕手として3年間、白球を追いかけていた。

 高校卒業後は福島県にキャンパスがある日本大学工学部に進学。ここでも野球部に入るつもりでキャンパス内の入部受付を目指していた大野を両脇から抱え込み、文字通り横からさらっていったのがラグビー部だった。


「親に見せられない練習」で鍛えた身体


 部の存続が危ぶまれるほど部員数に悩んでいたという日本大学工学部のラグビー部。「とにかく一度練習を見に来てくれ」と懇願され、練習を見にいってラグビーの魅力にハマった大野は、以降の人生をラグビーに捧げていく。

 上述したように、チームは東北リーグ2部所属。目立った戦績は挙げられなかったにもかかわらず社会人ラグビー入りを果たせた最大の特徴は、日本人離れした身体にある。

 身長192センチ、体重105キロ。ただデカいだけでなく、酪農家を営む実家で毎日絞り立ての牛乳を飲んでいたからか、外国人並みに骨が太い。そして、今年6月には右手人さし指を骨折し、骨がくっついていない状態で練習を続け、W杯メンバー入りを果たすという耐久力も魅力のひとつだ。

 この巨漢をベースに、「親に見せられない練習」といわれる東芝ラグビー部で鍛え上げた屈強な筋肉の鎧で、スクラム時に鍵(ロック)をかけるのが大野の仕事だ。トライやパス回しなどの華やかなプレーとは違い、実に泥臭く、ハードワークが求められるポジションを長年に渡って守り続け、世界の大男たちと伍してきたというだけで、その価値を知ることができるだろう。今のその体力、筋力、精神力で野球をやったなら一体どうなるのか……そんな想像は実に楽しい。


人に期待に応えたい、という原動力


 では、そんな大野に相応しいチームとポジションとは? ズバリ、読売ジャイアンツの控え捕手を推してみたい。高校時代に控えながらも捕手経験がある、という点が大きいが、それ以外にも理由は3つある。

 ひとつ目は「ベテラン不在」ということ。このオフ、高橋由伸、井端弘和、金城龍彦という40歳トリオが揃って引退した巨人。チームの生え抜き野手最年長は37歳の鈴木尚広になった。実は大野と鈴木、ふたりとも福島県出身の同級生で、高校時代には対戦経験もある間柄。チームを引っ張ることになる鈴木尚広の相談役として打ってつけではないだろうか。

 ふたつ目は、「頼りない捕手陣」にハッパをかけるため。今季、一塁手にコンバートした阿部慎之助を捕手に再コンバートしなければならなかったことからも、小林誠司をはじめとした今の捕手陣が頼りないのは明白だ。スクラムの要であったように、扇の要として、その類い稀な身体能力を発揮してもらいたい。

 そして最後は、大野自身が子どもの頃から「巨人ファン」であること、そして「人からの期待こそがパワーの源」である、ということだ。

 大野が今、ラグビーのトップ選手として活躍できるのは、「野球部時代に試合に出られなかったことが大きい」と自著で綴る。身体が大きく、周囲からの期待は大きかったにもかかわらず、その期待に応えられなかった悔しさ、申し訳なさが原動力になっているのだ。

《自分のプレーの根底には、人に期待に応えたい、という気持ちがあります。東芝で試合に出られるようになった頃、誰かが言っていましたが、「人間は自分のためにプレーするより、人のためにプレーする方が良いパフォーマンスができる」と。そう言われて、自分に置き換えてみると、確かにそうだなと思うのです》(大野均『ラグビーに生きる』より)


 12球団随一の集客を誇り、いつも声援を集める巨人でこそ、「人の期待に応えたい」という大野のポテンシャルが最大限に発揮できるはずだ。

 ロックというポジションの醍醐味は、自分でトライをすることではなく、自分の出したボールを誰かがトライしてくれること、といわれる。そんな「裏方気質」「縁の下の力持ち」な部分も、今の巨人に物足りない点だ。大野均の座右の銘は「灰になってもまだ燃える」。そんな「キン言」こそ、盟主復活の“鍵”なのではないだろうか。


文=オグマナオト(おぐま・なおと)

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