「金本政権」誕生から1年が過ぎた阪神。昨季は「超変革」のスローガンの下、多くの若手選手が1軍初出場を果たし、さらには北條史也が不調のベテラン・鳥谷敬から遊撃のスタメンを奪取する衝撃の下剋上も起こった。
フレッシュでまだまだ粗さを残す若虎たちが次々と1軍に出場し、ある意味「君コン」の宝庫(?)となりそうな阪神だが、なかでも抜群の武器を持ちながら変革の波に乗り遅れた男がいる。2014年にドラフト5位で入団した植田海だ。
今季で高卒3年目。175センチ72キロとプロ野球選手のなかではやや細身な体格で、俊足堅守が売りの遊撃手だ。
こう紹介すると直近20年ぐらいの間、阪神で頻出した「永遠の若虎」たちと印象がダブってしまうが、植田を一押しにしたい理由はその脚質だ。
阪神には“推定”俊足の選手は数多くいる。しかし、小兵揃いの割には盗塁が得意な選手は少ない。昨季もチームトップの盗塁数は鳥谷の13個。その鳥谷も決して盗塁が得意な脚質ではない。
パ・リーグ盗塁王の糸井嘉男の加入はあったが、チームの生え抜きで盗塁の名人といえば、赤星憲広の引退以来、空席となっている。
そんなチームの穴にピタリと当てはまるのが植田なのだ。高校時代は対外試合でほぼ盗塁の失敗はなし。2年目の昨季は2軍で失敗なしの12盗塁を決めた。
昨年末のWBSC U-23ワールドカップでは日本代表に名を連ね、全試合「2番・遊撃」でスタメン出場。9戦で6盗塁(1盗塁死)を決め、大会盗塁王に輝いた。その足はどんな舞台でも即戦力だ。
さらに植田は守備でも評価が高い。ドラフト時からすでに鳥谷以上の評価を受け、プロの舞台でもスムーズなフィールディングを見せている。高卒選手は往々にして守備の壁にぶち当たるが、まったくその心配はない。
課題は打撃だ。昨季はファームで76試合に出場し、打率.168(167打数28安打)。お世辞にも褒められた数字ではない。しかし、この打率には【注】がつく。昨年の春季キャンプから両打ちに挑戦しているからだ。
両打ちは少し首脳陣の欲張りな気もするが、盗塁という武器がある限り、阪神特有の「長所も短所もない便利屋」にはならない。
春季キャンプでは1軍大抜擢。昨年、唯一の1軍出場(代走)では初球盗塁失敗に終わったが、年間を通して代走屋のポジションに収まれば、2ケタ盗塁は簡単にクリアできるだろう。
超変革の第2波に乗って多くの盗塁を見たいところだが、2軍で打撃覚醒を待つのも楽しみ。いずれにしても植田はこんなもんじゃないのだ。
文=落合初春(おちあい・もとはる)