2014年12月28日。黒田博樹が、日本球界、広島東洋カープへの復帰を発表した。この時の衝撃は、カープファンのみならず、日本全土に及んだ。
年俸1600万ドル(約19億円)のスタープレーヤーが4億円で古巣と契約。高額オファーを蹴って、古巣への愛情を優先した「男気」がフィーチャーされ、野球ファンだけでなく一般層にも広く浸透。黒田は一躍時の人となった。
昨シーズンの主役はまさしく黒田。そして現役続行を発表した黒田は、2016年も注目を集めることは間違いない。新年を迎えた今こそ、激動の1年を過ごした黒田について、改めて振り返ってみたい。
黒田の日本復帰が決まって以来、黒田の一挙手一投足には注目が集まっていた。メジャーからの「都落ち」ではない、真の現役メジャーリーガーの実力はいかなるものか? その期待と、興味がカープファンのみならず野球ファン全体に広まっていたからだ。
その期待のあらわれが、形となったのが、3月8日のMAZDAスタジアムでのオープン戦であった。日本復帰初投板となったこの日、オープン戦では異例の超満員を記録。
この日本初公開の「魔球」フロントドアも話題となり、黒田狂騒曲はさらに熱を帯び加速していくのであった。
そして、迎えた3月29日の開幕3戦目、熱狂の坩堝と化したMAZDAスタジアムのマウンドに黒田が立った。結果は、7回無失点の熱投で、2740日ぶりの勝利を挙げる。夢にまで見た黒田の復帰、その黒田の勝利にカープファンは歓喜する。球場のビジョンには、嬉しさで号泣するファンが映し出されていたのがとても印象的なシーンだった。
黒田は、5月にくるぶしを痛め、7月には肩の炎症で2度の登録抹消。それ以外にも、8月18日の中日戦、29日のDeNA戦と2度にわたり打球が右手に直撃するなど、ケガも絶えなかった。
年齢も40歳を超えて夏場以降は体力的にも厳しいところはあっただろう。それでも勝負どころの9月、10月では2度の中4日登板、6試合で3勝2敗、防御率1.49と、最後までCS争いをするチームの軸として奮闘した。特に、最終登板となった10月4日の阪神戦では、シーズン最多126球を投げ、8回1/3を無失点に抑える力投を見せた。
打席では、阪神の先発・藤浪晋太郎から13球粘る闘志を見せチームを勇気づけるなど、投球以外でも貢献。勝てば、CS進出となる最終戦では、中2日で志願のブルペン入りをし、最後までチームの勝利を信じて戦うも、結果としてチームはCS進出を果たせず、4位でシーズンを終えた。
2015年の成績は、26試合で11勝8敗 防御率2.55。2ケタ勝利に防御率2点台は、メジャーローテーション投手の面目躍如と言えるだろう。
当然成績面の貢献度も然ることながら、要所で見せる粘りと好投、ベンチを鼓舞する姿勢など、その存在の大きさが際立ったシーズンでもあった。
チームの結果は不満が残るだろうが、個人としては「燃え尽きた思いがある」と語るようにやりきった感はあるのだろう。尋常ならざるプレッシャーの中で闘い続けた黒田に、改めて敬意を表したい。
その黒田はシーズン終了後、自身の去就について明言を避けた。そして、悩みぬいた末に出した答えが現役続行だった。エースである前田健太のメジャー移籍が濃厚な中、黒田にかかるプレッシャーは、今シーズンよりも重いかもしれない。苦しいシーズンであることは間違いないだろう。
「雪に耐えて梅花麗し」(寒い冬を耐え忍んだ梅の木ほど、華麗な花をつける)
黒田の座右の銘の通り、苦しいシーズンの先に栄光があるのか? 最後の光を放つ右腕にかかる期待は大きい。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)