『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.comまで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。開催の詳細をお知らせいたします)
キビタ:前回は世間一般でいわれる「いい打者」像を整理しました。今回はさらに踏み込んで、ひとつ上のレベルで通用する好打者の条件を考えていきます。
久保:どういった要素がありますか?
キビタ:大きく分けて3つの条件があります。
@インコースがさばけるか?
A失投をひと振りで仕留められるか?
Bヒットになるセオリーがあるか?
今回は特に、@「インコースをさばけるかどうか」について説明していきます。
キビタ:プロの一流と呼ばれるバッターでも、インコースの厳しい球は打てません。20年以上も前の話になりますが、1992年のヤクルトと西武の日本シリーズ第1戦を覚えていますか?
久保:ヤクルトの杉浦享選手が代打サヨナラ満塁ホームランを打った試合ですよね。
キビタ:このときに打たれたのが、当時西武の鹿取義隆投手でした。その後鹿取さんと話をする機会があって、92年の日本シリーズの話題になったんです。私が「杉浦さんが内角の難しい球を上手く打ちましたよね」と言ったら、鹿取さんは「何を言ってるんだよ。あれは完全に失投。甘いボールだった」と言うんです。当時の記憶では杉浦さんがインコースの厳しいところを打ったと思っていたんですけど、鹿取さんは「そうじゃない」と。
久保:私もそういうイメージでいました。
キビタ:ところが、当時の映像を見直すと、そうではなかったんですね。動画を見てもらったらわかると思いますが、キャッチャーの伊東勤選手(現ロッテ監督)のミットの位置は内角のボールゾーンです。ところが打ったところはベースの上。ミットがストライクゾーンまで動いています。
久保:あぁ、ミットが中に移動しました。
キビタ:テレビ中継ではバッテリー間が斜めになっているから、インコースの厳しいところのように見えますけど、打ったのは高めの少し内寄り。甘いボールです。以前の復習になりますが、バッターがどのコースを打ったかは、キャッチャーのミットの位置で確認するとよくわかります。
久保:確かにインコース寄りですけど、そんなに厳しい球ではなかったんですね。
キビタ:何が言いたかったかというと、プロのトップレベルであっても、インコースの本当に難しい球を打っている訳ではありません。「インコースを打った」と言われている大半は、インコース寄りの甘い球を打っているのであって、ギリギリの球ではありません。
久保:それだけインコースを打つのは難しいのでしょうか。
キビタ:プロのレベルでは、真ん中から少し外の甘い球ならだいたいヒットにします。勝負の分かれ目になるのは、内側の球をどれだけさばけるか。ここが打てるかどうかで、バッターの格が違ってきます。
久保:だからプロ野球のスカウトはインコースを打てる選手を高く評価するんですね。
キビタ:ただし少年野球だったり、中学生、高校生の地方大会の序盤あたりまでは、インコースしか打てない選手がたまにいます。そういう選手には外に3つ投げておけば打たれませんから、上のレベルでは勝負になりません。最低限真ん中から外の甘い球は打てたうえで、どれだけ内側を打てるかが、プロで活躍できるかどうかの分岐点になってきます。
キビタ:「インコースをさばいた」という表現がありますけど、その内容をもう少し吟味した方がいいと思います。対応はしているけども、厳密にはさばけているとは言えない選手も多いのが現状です。
久保:「さばく」と「対応する」の違いを教えてください。
キビタ:あくまでも私の定義ですけど、「さばく」というのは、きれいなフォームでクルッと回る打ち方です。バットを体に巻きつけるように、回転で打つのが「さばく」打ち方です。