『ダグアウトの向こう』は横浜DeNAベイスターズ発足時、つまり中畑清前監督就任以降の出来事に迫るドキュメンタリーシリーズだ。これまでに2012年、2013年、2014年シーズンを収めた3本が発表されている。
2012年シーズンを収めた『ダグアウトの向こう 〜横浜DeNAベイスターズ1年目の記憶』の映像は、まさに中畑氏の就任会見から始まる。会見に向かうホテルの通路で、中畑氏はカメラを持つスタッフに向かって宣言。「私は協力を惜しみません」。あらゆる球団運営の現場へのカメラ潜入を許したのだった。
緊張に押しつぶされそうな新人選手。監督室に呼び出されて2軍降格を言い渡される選手。復活して1軍へと舞い戻る選手。不調に苦しみ、涙ながらに自ら控え降格を志願する選手……。そんな生々しい選手の姿が胸に迫ってくる。
シリーズのなかでも筆者が印象深いのは、2014年シーズンを描いた『ダグアウトの向こう 今を生きるということ』での乙坂智の代打ホームランのシーン。ダグアウト裏でアップを言い渡され、通路のベンチで瞑想しながら集中力を高めていく乙坂。コーチからの代打の呼び声がかかるやいなや一直線に打席に向かい、振りぬいた打球は歓声とともにライトスタンドに吸い込まれる。鳥肌の立つシーンだった。
2016年シーズンを収めた最新のドキュメンタリー『FOR REAL』もこれまでの『ダグアウト』シリーズ同様、映画館での上映を経てリリースとなる(1月14日劇場公開、1月28日DVD、Blu-ray発売)。筆者も早速鑑賞した。SNSでのファンのコメントからも期待値の高さは見て取れたが、鑑賞前の時点でこの作品の面白さは「お墨つき」だった。
それもそのはず、万年Bクラスだったチームが初のCS進出を果たす大きなドラマが織り込まれているからだ。しかも「ハマの番長」としてファンを愛し、ファンに愛された三浦大輔投手の引退もあった。これだけのネタが揃っていて、面白くないはずはない。
制作者の立場とすれば、もっと収めたい映像がたくさんあったはず。規定の時間に収めるのに苦労したことだろう。
ネタバレにならないよう詳細は伏せておくが、とにかくDeNAファンにとっては印象深い昨シーズンのあんなシーンやこんなシーンが押さえられているので、未見のファンはぜひ鑑賞してほしい。
文=元井靖行(もとい・やすゆき)