今季の開幕時は、阪神の遊撃争いは北條史也で“決まり”と思われていた。
しかし、ここにきて遊撃が最も激しいバトルが繰り広げられるポジションになっている。
春季キャンプでは遊撃の座を巡って、不動のレギュラーとしてチームを牽引してきた鳥谷敬と、昨季ブレイクした北條が一騎打ち。
期待値込みで、若い北條が抜擢される可能性が高いと目された。また、衰えが隠せない鳥谷が三塁にまわることで、三遊間が落ち着くかと思われたのだが……。
大方の予想通り、開幕戦の遊撃スタメンに名を連ねたのは北條。しかし、期待に反してまったく調子が上がらない。そんな北條を尻目に、新たなる遊撃争いが巻き起こったというわけだ。
果たして、内野の要・遊撃のレギュラーの座をつかむのは誰か?
ルーキーの糸原健斗が遊撃に就き出したのはゴールデンウイークの頃。相手チームの先発が右投手のときは、北條に代わってスタメンで起用されることも多くなった。
それまでは、開幕当初から1軍に帯同していたものの、プロの壁に阻まれ打率は1割台に低迷。本来の打撃力は影を潜めていた。
しかし、コンスタントにスタメン起用されると徐々に力を発揮するようになっていく。持ち前の思い切りのいい打撃と、ボール球に手を出さない選球眼のよさが、糸原を「使ってみたい」と首脳陣に思わせるのだろう。
守備面では、アマチュア時代の糸原は二塁、三塁の経験は豊富だが、遊撃の守備機会に欠けていた。それが、プロに入っていきなりの遊撃。内野の要を担うポジションを必死でつかみ取ろうとしている。
今季の打撃成績は、打率.240と満足できるものではない。しかし、出塁率は.365とまずまず。120打席で17四球という選球眼のよさがうかがい知れる。
ちなみに、今季の北條は打率.203、出塁率.286。142打席で四球は11と少ない。
遊撃争いを守備力から見るとどうだろうか?
糸原と北條の失策数はともに4個。突出してひどい数字ではない。しかし、失策と記録されないミスは多々ある。慣れない遊撃に就く糸原の動きは安心できるものではない。北條にしてもいまだ経験不足の感はいなめない。
そこで存在感を出してきたのが大和だ。
内野では二塁、外野では中堅。どちらもゴールデングラブ賞ものの守備力を誇り、大和に打球が飛ぶとベンチもファンも絶対的な安心感を抱く。
高校時代には遊撃だったため経験も豊富。「大和が3人いればショート、セカンド、センターを守って、センターラインを固められるのに」と妄想を口にするファンもいるくらいだ。
課題の打撃を見ると、36打席と打撃機会は少ないものの打率.303、出塁率.361と結果を残している。
今季からスイッチヒッターデビューを果たした。新たに立つ左打席でもヒットランプは灯しているもののまだ発展途上。課題の打撃力は向上されるか?
北條、糸原、大和の間に割って入ろうとしているのが、アキレス腱断裂で昨季を棒に振った西岡剛だ。
ケガは順調に回復しているようで、ファームの試合に指名打者として出場しているが、守備機会はまだ与えられていない。
阪神に移籍後の西岡は主に二塁を守ってきた。現状、1軍の二塁は上本博紀が好調なため、西岡が1軍復帰となると遊撃で起用という選択肢もある。
ロッテ時代は遊撃で鳴らしただけに、経験値は問題ない。ケガが回復したらなら、後半戦の優勝争いの最中に西岡の力を借りる場面も増えると予想される。
混沌とする遊撃争い。遊撃は捕手とともに、守りの要だ。捕手と同様、一日も早く軸となる選手を固定したい。
(成績は6月7日現在)
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。