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第十回 チーム選びの落とし穴(4)

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考えるコーナーの第十回目。今回も野球ライター“ハリケン”こと服部健太郎さんが実話を交えて、「チーム選び」について語ります。

 前回まで、「わが子を少年野球チームに入れる時、いったい何を基準にチームを選んでいるのか?」をテーマに、「チーム選びの落とし穴」について触れてきた。今回は「のびのびしたゆるいチーム」の落とし穴について考えてみよう。

服部家が入団した「ゆるゆるチーム」


 今からちょうど7年半前。当時、小2のゆうたろうを連れて、見学に行ったチームは地元では「弱いが、のびのびとした楽しい野球ができる」という評判の創設27年目のチームだった。聞けば、家族の時間を大切にするという監督の方針の下、河川敷でおこなう練習は週末の午前中の半日だけで、土曜日は隔週で休み。勝負に勝つことは目的にせず、中学以降につながるよう、基本動作の習得に重きをおき、試合には全員を公平に出場させるというコンセプトだった。
「いいじゃん。いきなり朝から晩まで野球漬けはきついだろうし、うちのへたれ長男が野球を始めるにはもってこいのチームかもしれない」
 息子は組織でやる野球というものに対し、尻込みしているのがありありだったが、半ば強引に入団を決めた。
 低学年の部員数が極端に少なかったこともあり、大歓迎を受けた。
 先輩部員を見渡すと、「おれはバリバリの野球少年だ!」というオーラが感じられる子は少なかった。坊主頭の子もいなければ、ユニホームをきちんと着こなしている子もほとんどいない。まともなキャッチボールができる子も限られているし、外野ノックのフライを捕れる子もほとんど見当たらない。小学生の時に放映されていた、林寛子主演の少年野球ドラマ「がんばれ! レッドビッキーズ」を思い起こさせるような、ゆるゆるチームだった。
「『ここならうちの子でも続けられそう、試合に出れそう』っていうのが、このチームに一番多い入団動機なのかなぁ?」
 思わずそう推測したくなるような光景がグラウンドには広がっていた。

2年間で1勝もできなかった…


「チーム自体はすごく弱いらしい」
 そんな噂は入部前に聞いていた。強いチームを望んでいたわけではなかったので、特に気にはならなかったのだが、いざ入部してみると、想像をはるかに超える弱小ぶりだった。
 21対0、19対0といったダイナミックな敗戦は日常茶飯事で、3回コールド負けがお決まりパターン。その3回の中にベンチ入りメンバー全員を突っ込むため、「スタメンは代打を出されてしまう率が高いため、控えスタートの方が実は内心嬉しかったりする」という「チーム内あるある」が存在するのには驚いた。
「のびのび楽しく」がチームモットーだからという理由で、バントもしなければ、サインもない。
 練習時間も短い上、グラウンドも狭く、練習メニューはキャッチボールと縦ノックと、ティー打撃くらいしかできない。
 入部してから実に2年間、チームは公式戦、練習試合を通じ、ついに1勝も挙げることができなかった。間違いなく市では最弱。ひょっとすると県でも一番弱いチームだったかもしれない。
 子どもたちにとっても、保護者にとっても、そして指導者にとっても、「試合とは負けるもの」という感覚が定着してしまっていた。そのため、悔しがるそぶりを見せるような子はほとんど見当たらなかった。円陣の際に選手が叫ぶ「絶対勝つぞ」というフレーズはほとんど棒読みに近かった。
 入部してから知ったことだが、チームの弱さを揶揄する替え歌が地区に存在し、選手たちは自分たちが通う学校で歌われ、からかわれるのが常だった。
 公式大会の抽選会場では、対戦相手が早々にガッツポーズをしている。試合では明らかに格下と思われるメンバーを並べられているのに、やはり3回で試合は終了する。
 練習試合を申し込んでも、あまりに弱すぎて、受けてくれるチームがほとんどない。
 試合でいい思いがないからか、6年生の卒団文集の思い出話が夏季合宿時の海水浴やプールのネタなどで埋められていたりする。中学以降で飛躍できるようにと、短い練習時間の中で基本動作の反復に力を入れているわりには、中学で野球を続けてくれる割合ががっかりするほど低かったりする。

チーム選びは結婚と似ている?


 同時期にチームに入団した保護者兼コーチたちは、最初のうちこそ「子どもの野球だし、別に勝ち負けに一喜一憂しなくてもいいんじゃない?」「そうそう、ある意味、度量の大きいチームだよ」などと納得し合っていたが、さすがに2年も勝利がないと、疑念の声があちらこちらから噴出するようになっていた。
「弱いと言われてる楽天だって10回中3回は勝つのに。のびのび楽しくといってるけど、こんな状況で誰か楽しい思いできてるんだろうか?」
「楽しいというよりは、『楽にやり過ごすことができるチーム』といったほうがいいような気がしてきた…」
「勝負にこだわらず、楽しくやれればそれでいいというけど、勝たないと、楽しくなるものもならないし、勝つことからしか学べないことだって間違いなくあると思うんだよなぁ…」
「のびのび野球だからってサインがないのはどうなんだろう? みんなで意思を合わせて、出されたサインを成功させるというのも野球の魅力と楽しさを伝えることなんじゃないの? 第一、中学に行ったときに適応できないじゃん」
「全員が試合に出れるから、子どもたちが試合に出るための努力もしないし、競争原理も一向に働いてない」
「ここまで負けると、人生負け癖がついてしまうような気がする。月曜の朝から『先輩たち、昨日またぼろ負けしたから、おれらも学校でからかわれるんだろうな』ってつぶやいているのを聞いてると、やるせなくなる…」
「小学校で野球に対する悪い思い出が刷り込まれすぎて中学で野球を続ける先輩が少ないってことは、うちらの子どもだってその運命を辿るんじゃないか?」
「うわ、そんなん耐えられへん」
 お酒の場だと、アルコールの力も手伝い、この手の話はエンドレスの様相を見せる。最後には、「おっかしいなぁ〜。のびのびしたいいチームだと聞いて入ったのに、なんでこんな不満ばっかり言ってんだろう」と自己嫌悪に陥り、酔いがさめたりする。
「あくまでも自分たちの意思で選んだチームだもんなぁ…。自己責任といわれればそれまでなんだけど…」
「チーム方針に不満があるのなら、辞めれば、って話だもんな。でもなぁ、それもなぁ…」
「『この人となら幸せになれる!』と信じた恋人と結婚したものの、結婚生活を送るうち、『こんなはずじゃ…』と思いもよらなかったようなことが次々と起きる。なんか似てるよなぁ、少年野球チーム選びも…。『じゃあ離婚すればいいじゃん』といわれても、『はいそうですか』とはいかないよなぁ。なんか今、そんな気分」
「おれも」
 少年野球のチーム選びは、嫁選び並に慎重におこなうべきだったのか? 「のびのび楽しく」という響きに自分たちは幻想を抱きすぎたのだろうか…?

「楽しい野球」ってなんだろう?


 一方、チーム内には、野球熱が低く、少年野球活動を単なる習い事の一環ととらえている層が存在する。その人たちは、「そりゃあ勝てたほうがいいかもしれないけど、勝つために今さら練習時間が増えても困るし、競争原理が働いて、自分の子が試合に出れなくなるのもいや。別に野球選手を目指してるわけでもないし、今のままでいい」と現状維持を望んでいたりする。
 ある日、何人かの上級生が「このチームは適当に練習にさえ来ておけば、絶対に試合に出してもらえるんだから、頑張るだけ無駄だよ」と話しているのを、不意に聞いてしまった。
「のびのび、楽しい野球っていったいなんなんだろう?」
 はっきりした答えが出ないまま、勝利なき、2年の月日が過ぎ去った。
(次回へ続く)


文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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