後半戦に入り、チームに疲れの見えはじめた広島。それに対し、後半戦からうなぎのぼりで調子をあげている巨人。この絶妙な対比から、気づけば最大11あったゲーム差が、8月5日の直接対決を前にいよいよ6.5ゲームまで詰め寄られてしまった。
この予想だにしていなかった展開に加え、正捕手・石原離脱というアクシデント。広島に試練が訪れた。
打率.174と投手並みの打撃成績ながら、今シーズンは63試合で先発出場していた石原(8月9日現在)。先発出場時の先発投手の防御率は2.89と、抜群の安定感を見せている。
今シーズンの貯金は、石原の出場時に作られたと言っても過言ではない。チーム躍進の影には石原の存在があった。それはこの成績が物語っている。
そんな扇の要の離脱。チームにとって非常に大きなダメージといえるだろう。
正捕手・石原離脱の穴を埋めるのは、ここ数年、石原との併用が続く會澤翼をおいてほかにいない。
昨シーズンに掴みかけた正捕手の座を逃し、今シーズンはここまで2番手捕手としてチームを支えてきた。
しかし、會澤はここまで捕手として結果を残せていない。また、見せどころの打撃も石原離脱時点で打率.228と低迷。ここ数年ではワーストに近い成績となっていた。
調子が上がらぬなかで迎えたヤクルト戦。広島は最下位・ヤクルトを相手にまさかの連敗を喫してしまう。石原の穴を埋めるべく本塁打を放つなど奮闘した會澤であったが、2試合連続でヤクルトの主砲・山田哲人に本塁打を打たれてしまう。配球面での課題を露呈した形となった。
前日まで7連敗と負けが込んでいたヤクルト相手の連敗は、必要以上にファンの不安を煽った。
その不安感からなのか? 心ないファンがヤクルト戦連敗の戦犯を會澤とし、ネット上で激しくバッシング。ファンの間でも不穏な空気が流れ出してしまう。
ヤクルト戦に負け越し、緊迫した状況で迎えた2位・巨人との直接対決。結果は1勝2敗で、ゲーム差を1つ詰められてしまった。勝ち頭・野村祐輔、3本柱の一角・黒田博樹で試合を落としてしまったのは非常に痛い。
打者としての會澤は、石原離脱後の6戦で5安打、3本塁打、6打点。画面越しからも伝わるほどの気合いを見せ、結果を出した。
しかし、捕手としては、疲れの見える先発陣をなんとかリードし、奮闘するも結果を残せなかった。
石原離脱後に4連敗を喫し、6戦で7本の本塁打を浴びてしまったのは悔やまれる。
決して全てが會澤の責任ではない。しかし、捕手としてゲームメークする立場にある以上、他の野手よりもその責任ははるかに重い。捕手として課題が残ったのは紛れもない事実だろう。それ故か、相変わらず、ネットでは會澤への辛辣なコメントが多く見られる。
25年も優勝から遠ざかるチームにおいて、全選手がかつて味わったことのないプレッシャーの元で闘っている。そんななか、この6戦で最もプレッシャーを受けたのは會澤だろう。ただ、そこで見せた気迫は、ファンに訴えかけるものは充分にあった。
この痺れるほどのプレッシャーは、後に正捕手となるであろう會澤にとって大きな財産となるに間違いない。
8月9日、石原が特例措置で1軍に復帰。調子の上がらないジョンソンをなんとか勝ち投手に導いた。その手腕はさすがといわざるを得ない。
この日の状態を見る限り、これまで通り、石原と會澤の併用が濃厚だ。これからは、先の6戦以上にプレッシャーがかかる試合が続くだろう。その時に結果を出してこそ、會澤の真価が問われるはず。
今でこそ、石原が捕手として批判にさらされることは少なくなった。しかし、以前は今の會澤と同等、いや、それ以上の批判に晒されていた。それを乗り越えたから今がある。會澤もこの貴重な経験を糧とし、ファンからのバッシングを乗り越えて、球界を代表するような正捕手となってほしい。そして、そうなれると信じている。
ただ、個人的な思いとしては、優勝する瞬間、胴上げ投手と抱擁するのは、低迷期からチームを支えてきた石原であってほしい。そう願っている。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)