昨年、安芸での秋季キャンプで、金本知憲監督の野次がグラウンドをこだました。
「大山、大山、大山がホームラン打っとるでぇ〜!」
野次の矛先は、今季、4年目のシーズンを迎える陽川尚将だった。ウイークポイントの守備でボールを取り損ねたときに、金本監督が「待ってました!」とばかりに、陽川をいじったのだ。
陽川といえば、昨季、ウエスタン・リーグで打点王と本塁打王の二冠を獲得。打率も.301とリーグ3位の成績で締めくくった。
しかし、1軍では2本の本塁打を放ったものの、レベルの高い相手投手に格の違いを見せつけられたのか、バットは空を切ることが多かった。
この陽川に今年、ドラ1ルーキー・大山悠輔という最大のライバルが現れた。
しかし、陽川の最大の特徴は、遠くにボールを飛ばせる潜在能力にある。確実性が増し、1球で仕留められる技量を身につければ、ゴメスの退団で空いた一塁のレギュラー奪取は可能だ。
となると、ライバルは大山だけではない。一塁は他7つのポジションのなかで、もっとも激戦区となることが予想される。
「ここ」というときにホームランが打てる。陽川がそんな形でブレイクしてくれると、非常に面白い。
昨シーズン、ブレイクした北條史也が脅威に感じているのは鳥谷敬ではないかもしれない。
今シーズンの春季キャンプでも、北條は鳥谷と熾烈な正遊撃手の争いを演じることになる。
しかし、鳥谷とのポジション争いは、今シーズンである程度決着はつきそうだ。むしろ、背後に迫ってきている「守備・走塁のスペシャリスト」がやっかいだ。
このスペシャリストとは植田海。今年、成人式を迎えた期待の若虎だ。
植田は、昨年の第1回WBSC U-23ワールドカップで代表チームに選出され、優勝メンバーとなった。大会では、2番・遊撃でスタメンに名を連ね、通算打率.300を残したほか、6個の盗塁を決めて盗塁王にも輝いた。
そういう意味では、今春の宜野座キャンプで、もっとも勢いに乗って沖縄入りする選手かもしれない。
守備範囲の広さ、グラブさばき、捕ってから投げるまでの素早い動き、どれをとっても1軍レベル。いや、それ以上のものを持つ植田。そして、最大の武器である走塁は北條の比ではない。
植田の起用方法は「成長次第」というところだが、植田がブレイクすると、やはりチームは勢いづき面白くなる。
それぞれ、一芸に秀でた陽川と植田。
両者ともレギュラー奪取までの道のりはそうたやすくないものの、ブレイクして欲しい選手だ。
2016年は高山、原口、北條が金本監督の期待に応えたものの、チームは4位に甘んじた。
そして2017年、陽川と植田以外にも若手選手が台頭してくれば、阪神の12年ぶりのリーグ優勝も現実味を帯びてくるのだが……。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。