今シーズンの交流戦で活躍した広島の選手といえば、「交流戦開幕投手」の大役を成し遂げた薮田和樹が、真っ先に思い浮かぶファンも多いのではないだろうか?
シーズンからしばらく、リリーフとして投手陣を支えていた薮田が「交流戦開幕投手」を任されるに至った背景には、エース・野村祐輔の負傷による離脱があった。
5月23日のヤクルト戦、先発の野村が腰の不調を訴え、3回表に緊急降板。代わったマウンドに上がった薮田が3回を無失点に抑える力投を見せ、勝ち投手となった。この好投が評価され、5月30日、野村が務めるはずだった「交流戦開幕投手」に登板することとなったのだ。
その大事な試合で西武打線を6回無失点に抑え勝ち星を上げると、6月6日の日本ハム戦では6回3失点で再び勝ち投手に。交流戦2連勝を飾った。
そして、ハイライトは6月13日のオリックス戦。オリックスの先発は金子千尋。薮田には少し荷が重いと思うファンも多かったが、日本を代表する大エースを相手に一歩も引かない白熱した投手戦を演じ、自己最多の11三振を奪う力投。8回を無失点に抑え、投げ勝ったのだ。試合は1対0で決着。薮田に大きな勝ち星がついた。
交流戦での戦績は3試合の登板で3勝負けなし。防御率1.35と抜群の安定感を披露した。交流戦での広島の躍進は薮田抜きには語れない。
今や薮田は野村の代役ではない。先発ローテーションの一角として揺るぎない存在になっている。投手陣のピンチを自身の飛躍に繋げたメンタルの強さは、薮田最大のストロングポイント。今シーズンの優勝争いのなかで、その強みはチームを底支えすることだろう。
リーグ再開後は、6月23日から始まる阪神との首位攻防3連戦での先発登板が濃厚だ。変則フォームから投じられる150キロのストレートと、鋭く落ちるスプリットを武器に阪神打線をキリキリ舞いさせ、しっかり首位固めといきたい。
ドミニカカープアカデミーからやってきたバティスタのデビューは、文字通り「衝撃」だった。6月3日のロッテ戦、6回裏の広島の攻撃。スコアは2対3。1点ビハインドの場面で、前日に支配下登録されたばかりのバティスタが代打で登場した。
2軍では39試合で14本塁打と、驚異的なペースでホームランを量産。その怪力ぶりにファンから熱い視線が注がれていた。
いよいよ1軍登場となったバティスタへの大歓声が球場を揺るがすなか、ロッテの松永昂大が投じた4球目をフルスイングすると、バックスクリーン右に飛び込む大ホームラン! ファンの期待に最高の結果で応えた衝撃デビューだった。
これだけでも絶大なインパクト。しかし、ここで終わらないのがドミニカンパワー。翌日も代打で登場すると、再び特大の本塁打。スタメン出場を果たした6月7日の日本ハム戦では2打席連続の本塁打。満天下に驚異のパワーを見せつけ、一躍ニュースターとして野球ファン全体から注目を浴びる存在となった。
また、お立ち台で、通訳のクレートさんと交わしたたどたどしいやりとりでもファンの心を鷲掴みに。
「優勝に勝ちました」
「明日もまた来てくださいませんか?」
特にバティスタのスペイン語をカタコトの日本で通訳するクレートさんは愛嬌たっぷり。一生懸命な姿がすごくかわいい。と評判だ。バティスタとともに話題を呼び、2人の会話には一大ブームになりそうな気配が漂う。
その後は、速いストレートに振り遅れるシーンが目立つなど、1軍投手の実力を見せつけられ、壁にぶち当たっているバティスタ。
しかし、バティスタの大爆発がチームに勢いをもたらしたのは事実。この壁を乗り越え、再びクレートさんとお立ち台に上がることを切に願う。
今年の交流戦では、優勝をかけた最終戦で主力を欠くソフトバンク相手に力負けするなど課題も残った。秋には再び日本一を賭けて、パ・リーグのチームと戦いたい。そのためには薮田が安定感のある投球を続けることと、バティスタの再点火は欠かせない。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)