人生には必ず、ターニングポイントが訪れる。いつ訪れるかはわからないが、中田翔にとって、それは2015年だったのではと思う。
シーズンでキャリアハイと言える成績を挙げ、世界野球・プレミア12でも堂々たる結果を残し、名実ともに日本のトッププレーヤーになった中田。しかし数字以上に、人間として変わったと思わせる瞬間があった。そのシーンを切り取ってみたい。
2013年のWBCで、中田翔はチーム最年少だった。プロ入りして6年が経過し、4番候補とされていたが、フタを開けてみれば一度も4番を打つことはなく、初戦に至ってはスタメン落ち。まだまだチームに欠かせない選手ではなかった。
それが昨年開催されたプレミア12では、野手だけで4人の後輩が入ってきた。守備位置もプレースタイルも違うので、ポジションを脅かされることはないが、それでも先輩として恥ずかしい…いや、ダサい姿は見せられないと思っただろう。
なかでも筒香嘉智(DeNA)とは、行動をともにしているところが紹介されていたが、同じホームランバッターとしてシンパシーを感じていたのだろう。だからこそ、「5番筒香・6番中田」という打順が機能したと考えられる。
そして台湾でのドミニカ共和国戦。筒香が目測を誤ってフライを落とし、直後に同点ホームランを浴びるという最悪の展開の中で、中田は決勝のタイムリーを放った。気落ちする後輩のために、何とかしたいと思って本当に何とかした。兄貴分として、これ以上ない仕事をやってのけたわけだ。
フォア・ザ・チーム。中田の辞書にはない言葉だと思っていたので、選手として、最後の1ピースが埋まった瞬間を見た思いがした。
私が中田にフォア・ザ・チームの精神がないと思ったのは、オールスターゲームでの緩慢なプレーを見たことが原因だ。「球宴」だからといって、手を抜いていいわけではないという思いがあり、内野ゴロを打つたびに、ちんたらと一塁へ向かう姿を見せられたことで幻滅させられていた。
野球選手も1人の人間。ダメなときもあるだろう。しかし、そういった時ほど人間としての真価が問われる。ほんの数カ月前の中田からは、「自分さえよければいい」という気持ちしか感じられなかった。そのため、「4番中田」には懐疑的だった。正直なところ、実現しなくてよかったとさえ思った。
しかし昨年のプレミア12を見た今は違う。大会を通して、中田は生まれ変わった。チームのために戦える選手になった。そうでなければ、筒香のミスを取り返すヒットを打てていなかったはずだ。だから、今は声を大にして言いたい。
侍ジャパンの4番を打つ、中田翔を見たい!
文=森田真悟