週刊野球太郎
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第13回■野球太郎No.003 2013春号 (著者 ナックルボールスタジアム編集部)



 いや〜まさかこんな日がくるとは! なんとまあ、このベースボールビブリオのコーナーで「野球太郎」の書評を書く日がやってきました。思い起こせば昨年のドラフト前、10月5日に「野球太郎No.001 2012ドラフト直前大特集号」として産声をあげたこの野球マニアには堪らない野球専門雑誌の「野球太郎」。なんと、先週の1月29日にはめでたく第3号が誕生しました! 今回はベースボールビブリオの店主である小野さんのご厚意もあり、生まれたての第3号について、あくまでも「一般読者」としての感想を書かせていただきます、はい。
 何はともあれ、今号の特集「君はこんなもんじゃない!」(略して『キミコン』)に触れないわけにはいきません。「高い潜在能力を持ちながら、まだまだその実力を発揮できない選手、もっと活躍できるだろう? と思える選手」を紹介する企画ですが、これはもう、大手出版社が刊行する野球雑誌では実現しないであろう、そんな勇気ある企画だなあと感心せざるを得ません。取材する選手たちに向かって「君はこんなもんじゃない!」というコーナーで取り上げたいのですが…というインタビューの申し込みをする時点で並々ならぬ勇気が必要です。そんな編集部の勇気を出した行動の甲斐あって、月並みですがやはり「面白い」と言わざるを得ません。
 表紙を飾る大田泰示選手(巨人)をはじめ、岩本貴裕選手(広島)吉村裕基選手(ソフトバンク)といった、アマ時代に大活躍した選手、またはプロ入り後にブレイクしたものの、その後の活躍がパッとしない選手たちにそのあたりを直撃インタビュー。思いの丈を語ってもらい、さらには現状打破への取り組みについて検証するなど、読み応えある記事がズラリと揃っています。
 巻頭では「こんなもんじゃない選手名鑑」としてアマ時代からその活躍を目の当たりにした「野球太郎」ライター陣が選ぶ『キミコン』選手を78名も紹介。是非とも今シーズンが始まる前にこの選手名鑑をチェックして「予習」しておいたほうが良いですよ。しかしながら『キミコン』という言葉は、「○○選手は『キミコン』だな」といったように、プロ注目選手のコトを指した「プロ注」みたいに使われるかもしれないですね。
 そしてもう一本、個人的に惹きつけられた企画があります。南海やオリックスなどで活躍、歴代3位の567本塁打を放ったあの門田博光氏(元南海ほか)と、これまた「浪速のアーチスト」と呼ばれる若き長距離砲、オリックスのT-岡田選手とのスペシャル対談は、何というか、読んでいてグイグイ引き込まれる…そんな内容の記事でした。2010年に33本塁打を放ちパリーグ本塁打王に輝いたT−岡田選手。しかしながら翌11年は16本、昨年はケガの影響もあり10本とファンが期待する成長曲線を描けずにいますが、ファンのみならず、同じ左の長距離砲として一時代を築いた門田博光氏にとっても「君はこんなもんじゃない!」と言いたくなる選手に違いありません。
 本塁打の減少の理由として11年から導入された統一球の影響が指摘されていますが「ボールが変わったら、それに対応して挑むのがプロ」と門田氏はバッサリ。「君は700本打てるんや!」というゲキと共に興味深かったのは門田氏がいう「改革」のこと。毎年同じ調整法や同じ考えで野球を続けていたら技術の成長はあり得ない、と自身の後継者候補に熱心に伝えます。例えば900グラムのバットを使うT-岡田選手に対して「ワシらにしたら箸みたいなバットや」と言い放ち、現役時代、40歳代で重さ1キロのバットを使って本塁打を量産していた門田氏は「松永、石嶺、藤井、福良…当時のチームメイトたちは興味を持って飛びついてきたが、手首を痛めるといって3日も続かなかった。最後まで続けたのはブーマーだけ。お互い、腰を使って打っていたから手首をケガすることはなかった」とコメント。若き本塁打王に伝える自身の経験談を聞くと、改めて昔のプロ野球の「凄み」みたいなモノを感じずにはいられません。
 この対談記事を書いたライターの谷上史朗氏は、個人的に最も尊敬するライターさんのうちの一人ですが、プロ野球界から離れた門田氏の「野球への想い」を代弁すべく、4年前から門田氏の取材を続けていらっしゃいます。またT-岡田選手についても履正社高時代からオリックス入団、ファームでの下積み時代から本塁打王に輝くまで密着取材を重ね続けているそうです。長きに渡り取材を続けていた谷上氏だからこそ、門田氏もT-岡田選手も信頼してここまで喋ってくれたのだろう、谷上氏がインタビュアーだったからこそ、ここまでの内容を引き出せたのだろう、と改めて感心してしまいました。
 そう考えると、やはり「野球太郎」の素晴らしいところはズバリ「野球好きが集まって創った、純粋な野球雑誌である」といったところでしょうか。毎日毎日、野球のことばかり考えている編集部員たちと、長きに渡って信頼関係を築きあげてきた野球好きライター陣で創られるこの野球雑誌は、単純に売り上げ目的で発行された野球雑誌とは一線を引くというか、そういった、最近出ては消えていった野球雑誌では一生追いつけない「壁」みたいなモノが見えました。「野球太郎」は魅力満載の野球雑誌だなあと、改めて考える次第です。


※次回更新は2月12日(火)となります


■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリング。と、まだまだ謎は多い。

文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterアカウントは@SuzukiWrite


■お店紹介
『BIBLIO』(ビブリオ)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目25
03-3295-6088

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