新旧プロ野球選手の必殺技にスポットライトを当てる本企画『プロ野球必殺技列伝』。第1回は、FA移籍1年目から阪神のエースに君臨した西勇輝をクローズアップしたい。
昨季、26先発で172回1/3を投げ、10勝8敗、防御率2.92の結果を残した西勇輝。オリックス時代から非常に安定した成績で推移しており、セ・リーグでもさすがの投球術を見せつけた。
昨季の奪三振率は5.85(9イニング換算の平均奪三振数)と決して三振が多いタイプではない。まず、西のストロングポイントとして挙げられるのはコントロールだが、卓越したクイックと牽制の技術があるからこそ、投球術が映える。
特に牽制はピッチャー史に残るほどの絶品だ。最速1秒を切る超高速モーションで、低めにピンポイントで投げ込む技術は脅威的。毎年、いくつもの美牽制を見せており、昨季はCSの大一番でも的確な牽制で走者をアウトに仕留めている。
昨季はゴールデン・グラブ賞を受賞しているが、西が評価されたのは、間違いなくココだ。もちろんフィールディングも上手い。牽制に難を抱えるアマチュア投手も少なくないが、ぜひ参考にしてほしい「お手本」である。
韋駄天が走るか、西が止めるか。そんな勝負も見所のひとつ。今季は西の“睨み”にも注目してほしい。
昨季、ユニフォームを脱いだ上原浩治(元巨人ほか)も牽制の名手だった。素早い牽制に加えて、赤星憲広(元阪神)ら韋駄天に対してはスーパークイックも駆使。現役時代はテンポやコントロールに注目が集まったが、クイックネスも大きな武器だった。
日本時代には、牽制でアウトを奪うシーンがテレビCMになったほど。牽制がCMになった選手は、後にも先にも上原だけではないだろうか。
さらにレッドソックスで守護神を務めた2013年には伝説の牽制も見せた。カージナルスとのワールドシリーズ第4戦。2点リード9回裏、2死一塁の場面で一塁走者を牽制で刺し、ワールドシリーズ史上初の「牽制でのゲームセット」を果たした。
昨年5月に引退を表明した際にMLB公式ツイッターは、この伝説の牽制の動画を添え、「史上最高の牽制?」と上原を労った。
小技と見られがちな牽制だが、名手の域に達すると必殺技と化す。西も上原のような「伝説の牽制」を生む可能性のある名人芸を持った投手だ。
文=落合初春(おちあい・もとはる)